メールを見る。送り主は幸次郎。

「今日も出掛けないか?」

最近いつもこれだ。というか最近異常に幸次郎がデートに誘ってくる。なんなんだこの変化は。


私と幸次郎は中学の卒業式の時に幸次郎から告白されて以来ずっと付き合っている。今年でもう五年になるだろうか。月日が経つのは早いものだ。勿論喧嘩したりして一時別れの危機が訪れたこともあったがなんだかんだで続いている。そんなふうに五年もの間付き合ってきたわけだが、幸次郎がこんな風に頻繁にデートに誘うのは初めてだった。

いつもは週一回、多くて二回、会うか会わないかくらいで、それ以外はメールしたり電話したりするくらいだった。だが今なんとほぼ毎日幸次郎が私をデートに誘ってくるなんて生活が1ヶ月は続いている。私もなるべくは行くようにしているがここまでくるとさすがにちょっとおかしいと思うわけである。

とりあえず身仕度を済ませていつも通り玄関へ。いつもはまず服などの買い物をするのだが私は今日一番最初に喫茶店に行こうと言った。幸次郎も最初は不思議な顔をしたけれど、すぐになんでもないような顔になって、私たちは喫茶店へ向かった。


幸次郎はカプチーノ、私はアイスコーヒーを頼んでとりあえず一口飲み、私は幸次郎に聞いた。


「ねぇどうして最近頻繁にデートに誘うの?」

幸次郎はカプチーノを飲むのをやめて一息つく。

「…だってもう2ヶ月しかないだろ。」

それがどういう意味か、私は言われずともわかっていた。地球が終わるまであと2ヶ月。もうあれからさらに3ヶ月が過ぎてしまっていた。それでも私は別にどうとも思わなかった。

「しかしお前本当に緊迫感というかそういうのがないよな。」

「まあね。だってもうどうしようもないじゃん。」

「まぁそうだが…」

「でしょ。だから普通に最後までいられれば私はそれでいいの。」

「…俺は残りの2ヶ月、少しでもお前と一緒にいたいと思ってる。だからつい…。」

幸次郎は少し申し訳なさそうな顔をして言った。
私は幸次郎がそんなことまで思ってくれているとは考えていなかった。確かに私も残り2ヶ月しかないのなら少しでも幸次郎と一緒に居たいと思う。幸次郎と一緒にいるのも地球が終わるのを受け入れてしまっているのも普通だったからそんなこと全く考えていなかったけど、改めてそう思う。私は幸次郎の想いが素直に嬉しかった。

「それで、かんがえたことがあるんだが…」

「?」

「残りの2ヶ月、俺達同棲しないか?」

それはあまりにも予想外でぶっ飛んだ考えだったものだから私は少しの間返事に困った。しかし冷静に考えるとそれもいいかもしれないと思った。だが問題は沢山ある。

「いいけど住むところは?」


「俺の家」

「私の引っ越しの準備とかあるじゃん」

「それは明日俺に連絡を入れてくれればすぐに業者を行かせる。」

「あたし寝相悪いよ」

「前から知ってる」

「…料理も…そんなにできないし。」

「それも前から知ってる。俺だって前からちゃんと考えていたし、それなりの準備も進めていたから言ってるんだ。だから安心してくれ。」


さすが金持ちで頭の切れる人間である。そんなにちゃんと計画までしっかりしてて同棲するなら申し分ない。私は改めて二つ返事で同棲を了承した。

「よかった。じゃあ多分来週くらいからは一緒に暮らせるだろう。」

「うん。色々ありがとう。」


「…楽しみだな。」

「うん。楽しみ。」

幸次郎が本当に嬉しそうに笑うものだからわたしもつられて笑顔になった。

それからはやっぱりお決まりのコースを見て回った。今日は少しだけ非凡な1日となったがそれもまた幸せだと思う。そして私はもっと早く気づくべきだった。この平凡な生活でも幸せを感じられていたのは幸次郎のがいたからだということに。小さな幸せは見失ってしまうものだ。

そうして初めて私は残り2ヶ月しか生きられないことを悔やむのだった。


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