昨日、彼女が 死んだ



彼女は俺の幼なじみだった。俺が物心ついたときにはすでに彼女は入退院を繰り返しており、俺はそんな彼女のもとへいつもお見舞いに行っていた。彼女の腕には常に何本もの管が繋がれており、いつ見ても痛々しかった。しかし俺より何倍も辛い思いをしているであろう彼女は辛そうな表情を絶対に俺に見せることはなかった。そしていつもへらりと弱々しく笑うのだった。


そんな彼女が死んだ

死んだ彼女の顔はいつものように眠っているようだったが、俺には笑っているようにも見えた。

彼女の死を純粋に悲しいと思ったが、不思議と涙は出なかった。




「この度は御愁傷様です」

何かのテレビドラマでしか聞いたことがないような言葉が俺の目の前で交わされている。他にも周りを見渡せば彼女の友達や親戚などが嗚咽まじりの涙を流しつつ悲しみを分かち合っていた。俺はそんな様子をただぼんやりと見つめていた。

「ヒロトくん」

そんな時突然声をかけられた。ぼんやりしたまま声の主の方を振り返ると、そこには彼女のお母さんが立っていた。俺がこんにちはと返すとおばさんは何も言わず俺に手招きをした。呼ばれた方に行くとおばさんは一冊のアルバムを俺に手渡した。

「あの子の写真。ずっと入院してたから写真は少ないけど。ヒロトくんにはいつもお世話になっていたから一緒に思い出に浸ろうと思って、ね。」
おばさんはいつも通りだったから、彼女の死を既に受け入れているように見えた。普通もっと悲しむもんじゃないのかなとか心の中で思ったが、もう悲しくないんですかとは聞けなかった。そんなことあるわけないし、いつも通りなのは俺も同じだから。

アルバムのページをパラパラとめくる。彼女が病院から逃げ出そうとして怒られた時の写真や俺と2人仲良く笑っている写真などがあり、懐かしさに自然と笑みがこぼれた。そんなふうにアルバムを見ながら、もうこんな彼女を直接見ることはできないんだなと思ったら急に鼻の奥がつんとして、その時初めて涙が出そうになった。


俺は彼女が死んでしまったことも、もう話すことも会うことも出来ないことがわかっていた。あの笑顔をもう二度と見ることができないこともわかっていた。





全部、全部わかっていたし、それを受け入れていた。


つもりだった。


写真の中で笑う彼女を見た瞬間に襲ってきた死への実感。蘇る彼女の顔と思い出。いろんなことを思う度に自然と涙がこぼれた。おばさんもまた、泣いていた。
俺は悲しかった。
そして急に寂しくなった。


泣きながらおばさんは俺に手紙を手渡した。
「あの子が、ね、亡くなった後、病室の荷物をまとめてる時に出てきたの。渡しておくべきだと思って。」どうやらおばさんが俺を呼んだ一番の目的は手紙を渡すことだったようだ。封筒には彼女の少し震えた文字でヒロトくんへと書かれていた。中には便箋が一枚だけ入っていた。恐る恐る手紙の内容を見る。

手紙にはたった二行、
今のままでありがとう
大好きだよ。
とだけ書かれていた




手紙を読み終えると、なんだか彼女が近くにいるような気がして振り返る。またいつみたいに笑ってるんじゃないかって、淡い期待を抱きながら。

でもやっぱりそこにいたのは棺の中で綺麗な花に囲まれ冷たく動かない彼女だった。

 
 
泪の葬列
(俺も大好きだったよ)
(もう会えない君へ、)



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企画「さよなら」提出品

なんかちょっとありがちな感じになってすいません;
読んでくださりありがとうございました。


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