息を吐くと吐いた息が白くなるくらい外は寒かった。余りの寒さに私はマフラーの中に顔を少し埋めた。私は今、校門の前でヒロトくんを待っている。一緒に帰るっていうのもそうだけど、なんせ今日はバレンタインデーだ。一応彼氏であるヒロトくんの為に、料理はそこまでできる方ではないけれど、これでも一生懸命チョコを作ってきた。かわいいラッピングだってしてきた。ヒロトくん、喜んでくれるといいな。
外に出てから5分ぐらいして、寒さで手に息を吹き掛けているとヒロトくんが私を呼ぶ声が聞こえた。わたしはあわててチョコをポケットにしまう。
「遅れてごめん!」
ヒロトくんは走ってきてくれたみたいで少し息が荒かった。呼吸を整えて一息つき、私ににこりと微笑む顔に、少しだけドキドキしつつ、私は今から渡すチョコの事を考えていた。いま、渡しちゃっていいのかな?そんなことを思っていると、ヒロトくんが何やらやたらでかい袋を持っているのに気がついた。
「ヒロトくん、それ…」
「ああ、これね。チョコだよ。全部。いっぱいもらえてびっくりしちゃった。この学校の女の子って積極的なんだね。」
「へ…」
爽やかに答えるヒロトくんに私は唖然とした。ヒロトくんがモテるのはわかってた。でもまあ一応私も彼女なんだしと安心していた所もあった。でもここまでモテるとは。なんてある意味感心していたのだが、一番にチョコを渡せなかった自分になんだかちょっと悔しくなった。
それにしてもヒロトくんの顔がいかにも嬉しそうなのがむかつく。いつもはあまり感情を大袈裟に表さないヒロトくんだけど、今のヒロトくんは少しだけ口元がいつもより緩んでいる。まあ嬉しくない方がおかしいだろう。でもやっぱりなんかむかつく。あの大量のチョコの中には絶対に本命チョコだっていっぱい入っているんだろう。あのかわいいラッピングのチョコをあげたのは私なんかよりもずっとかわいい子かもしれない。もしかしたらチョコ貰うときに告白されたかもしれない。ああもう嫌だ!私の中にふつふつと理不尽な嫉妬心がわいてくる。
それにあんな素晴らしいチョコたちに比べて私が渡そうとしているこのチョコなんて、いくら彼女が作ったものとはいえあの袋の中に入ってしまえば簡単に埋もれてしまうんだ。トクベツなものだって紛れてしまえばそんなもん。まわりと同化しちゃってなんだかんだで特別なのは最初だけ。あとはオシマイだ。
考えれば考えるほど悪い方向に考えてしまう。ヒロトくんに対して嫉妬したってそれが理不尽なことだってわかるけど、…わかるけどさあ!
「ねぇ、どうかした?」
「どうもしない!」
「なんか珍しく怒ってるじゃん。まさか嫉妬でもしたの?」
「う、…ち、違う!」
「ふーん。へーぇ。そう。」
「なんなの!?ニタニタしてさぁ!」
「そんなことより」
ん、なんて言いつつめちゃくちゃいい笑顔を浮かべながら私に両手を差し出した。
「俺に渡すもの、あるでしょ?」
ね?といって今度は少し首を傾げた。これがかっこいいからいらいらする。私は思いっきりぐるんと後ろを向いて、「そんなもんないし!」なんて大声で返しつつ、ズカズカと勝手に歩みを進めた。ヒロトくんの「え、」だの「ちょっとまってよ」だのなんか言ってるのが聞こえるがそんなものは無視だ。
歩き始めてからだいぶ経って、ちらりと後ろを見れば少しだけ困った顔をしたヒロトくんがいた。ちょっとやりすぎたかな、と思い、ヒロトくんの方に向き返ろうとしたとき、ヒロトくんがいきなり私に抱きついた。
「はいつかまえたー」
「ば、ばか!なにあの顔!だましたな!?」
「うん。」
そしてより一層私を強く抱き締める。ヒロトくんの息が首筋から耳の辺りにかかってくすぐったい。ドキドキしすぎて私の心臓がもたないかもしれない。
「ねぇ、あるんでしょ?本当はさ。」
「…ま、参りました」
「ふふ、」
ヒロトくんが私を抱き締める腕の片方で私の頭をなでた。
「嫉妬させちゃってごめんね?でも好きなのは君だけだよ。」
「ヒロトくんずるい。ヒロトくんばっかり私をドキドキさせちゃってさ。このイケメンめ!そしていい加減離せ!」
「やーだ。その前にそれって褒めてるの?まあいいとして、それなら君だってずるいよ」
「なんでよ!」
「かわいすぎるから。」
私の顔が真っ赤になっていくのがわかった。もう嫌だヒロトくん。ずるいずるいずるいずるい。一番ずるいのはヒロトくんだ。
「ヒロトくんなんかチョコ食べまくってお腹壊して寝込んじゃえばいーんだ。」
「ひどいなぁ。でも残念でした。このチョコはお日さま園のみんなにあげるからね。」
「ひどっ!せめて1つ1つ一口は食べてあげなよ!」
「全く、結局君はどうして欲しいの。まあなんと言われようがこれはお日さま園のみんなに配るよ。それに…」
ヒロトくんがおもむろに私のコートのポケットにあったチョコを取り出した。
「俺にはこれだけで十分だしね。」
「じゃあ私のチョコ食べてお腹壊してしまえ」
「それはちょっといやだなあ。じゃあ一緒に毒味でもしようか。」
そう言ってラッピングを解いてチョコを取り出し、口に放り込む。そして抱きついていた体の向きを変えておもむろに私にキスをする。結構深くて長いキスだったのに、唇を離してからもヒロトくんの顔は余裕たっぷりな感じでなんかもう色々と負けた気がした。
「うん、おいしいおいしい。なんならもう一回毒味する?」
「………。」
「ねぇ、」
「………す、る」
「しないって言ってもするけどね。」
うそつきな くちびる (すなおになりました)
------------------ バレンタインデー記念 その2
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