※だいぶ捏造
※総帥がお父さん
※死ネタ





電話が鳴った。ディスプレイを見れば"お父さん"とかいてある。1年ぶりとなる連絡に、私は喜びと同時に怒りを覚えた。私は荒々しく通話ボタンを押しつつすぐに電話に出た。



「久しぶ…「お父さんのバカ!なんでずっと連絡くれなかったの?心配したんだよ?こっちの気も知らないで!」

「悪い…お前「1年ぶりだよ?い・ち・ね・ん!あたしがどれだけ寂しい思いしたと思ってんの!?」

「まず落ち着け。」



お父さんの話を全く聞かずに話を進めてしまった。だがそれくらい私は寂しかったしお父さんを心配していたのだ。だけど流石にちょっと申し訳ない気持ちになって、お父さんの次の言葉を待つと、電話越しでもわかるくらい大きなため息が聞こえた。



「…寂しい思いをさせてしまってすまない。明日私は日本に帰る。そのことを連絡するために電話したのだ。」

「それ…ほん、とう?」
「私が嘘をつくと思うか?」
「ちょっと怪しい」
「…まあいい。でも本当だ。」
「嘘!ちゃんと信じてるよ!そんなことよりやったあ!何時位に着くの?」
「大体昼位だ。」
「アバウトだなぁ。でもわかった!お土産よろしくね!」
「ああ、じゃあ切るぞ。」




明日お父さんが帰ってくる。私は嬉しくてどうにかなってしまいそうだった。私はお父さんと2人暮らしをしている。お母さんは私が小さいときに他界してしまった。お父さんはサッカーの監督をしているのだが、何故かまわりの皆に恐れられている。それはきっと皆お父さんが優しいことを知らないからだ。確かにちょっと見た目は怖いけど、忙しくない日は私をお出掛けに連れていってくれたり、私の元気がない時は、何も言わずにそばにいれくれる。まぁお父さんはいつも忙しいから一緒に居られる時間はあまり長くはないのだが。そんなお父さんが私は大好きだった。




お父さんが帰ってきたら何をしようか。とりあえず、抱きつく。そしておかえりを言って、いままでの出来事をいっぱい話すのだ。それから次の日はお父さんと一緒に久々のお出掛けがしたい。あ、でもお父さんの話もいっぱい聞きたい。でもそれは車の中で聞こうかな。それから、それから…


そんな事を考えているうちに私は少し眠くなってきてしまって、そのままソファーで眠ってしまった。私はお父さんにおかえりを言う夢を見た。




***




私は今空港に向かう車の中にいる。


久々にあいつの声が聞けて嬉しかったと同時に申し訳なさを感じた。あんなに寂しい思いをさせてしまっていたとは。確かに忙しいからといって余り、というか全く連絡していなかったから帰ったらたくさんあいつの話を聞いてやろう。私も監督としての役割に一区切りつけて、これからはゆっくり過ごせそうだから。



たまたま通りかかった店にあいつの好きそうなぬいぐるみがあった。赤いリボンをつけたかわいらしい大きなくまのぬいぐるみ。私は迷わず店に入り、すぐにこれを購入することにした。きっと、喜ぶ。レジにそれを置けば店員が私に微笑みかけた。

「娘さんにですか?」

そう言われたときあいつの喜ぶ顔が浮かんで口元が少しだけ緩く上がった。

「プレゼント用で頼む。」




それから私は車に乗り込んだ。飛行機の時間に間に合うように、空港にはなるべく余裕を持っていきたい。この島はサッカーの大会ためだけにあるようだが私はあまりこの土地について詳しいことは知らない。だがこんな夜中から飛行機に乗らなければならないのだから時差は10時間位といったところか。あいつに会うのが待ち遠しくて、流れていく景色がいつもよりゆっくり感じた。




少しだけうとうとしていると、車の運転手が叫ぶ声がして一気に目が覚めた。見れば大型のトラックが猛スピードでこちらに向かってくるではないか。嘘だろ?こちらの車線はあっているはずだ。ならば向こうが逆走しているのか。私はプレゼントに買ったぬいぐるみを守るように抱き締めた。車は避けきれずトラックと正面衝突。車体の外に投げ出される。ドサリと身体が地面に叩きつけられる鈍い音がした。



運転手は即死。私はまだ少しだけ息はあった。ぬいぐるみを見ればそれは無事だった。ただ、頭が割れるように痛い。でもそんな痛みが段々なくなっていくのがわかった。なにも、感じない。痛みも苦しみも、なんにも感じない。


私は死ぬのか?


私は今まで散々なことをやってきてしまった。その自覚はある。これはもしかしたらその酬いなのかもしれない。でも、それでも、まだ私は死ねないのだ。嫌だ、まだあいつに会えてないじゃないか。プレゼントだって渡せていない。そんなことより、今まで忙しかった分やってやりたいことが沢山あるのに、まだやってやりたいことが、まだ。薄れていく意識のなかで、あいつの笑顔だけが鮮明に浮かんだ。涙が出そうになった。


本当に

ごめん、な。






***




電話の着信音で目が覚めた。時計を見れば午前9時。これが休日じゃなかったら私は確実に遅刻していただろう。そんなことより着信はお父さんからだろうか。とりあえず電話に出る。


「もしもし。」
「あの、影山澪治さんのご親族の方ですか?」

予想していた相手と違い私は少し戸惑った。それよりこの人は、一体。


「は、はい。あの…」
「こちらはセントラルパークの総合病院の者です。」


どうして病院?私はなんだか嫌な予感しかしなくて受話器を持ったままその場にゆっくりしゃがみこむ。

「落ち着いて、聞いてください。」
「……。」
「……あなたのお父さんが、お亡くなりになりました。」



「…!」



お父さんが、死んだ?

嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ、昨日帰るって、言ってた、よね?

「…事故で、空港に向かう車がトラックと衝突して…。遺体は後日日本着きます。それから…」

私は受話器を落とした。カツンという音だけが虚しい空間に響き渡る。落とした受話器からはなにを言っているかはよくわからないが、まだ話を終えていない医者の声が聞こえた。

信じられなかった。というより信じたくなかった。
お父さん、私もっとお父さんとやりたいことがあったのに。お父さんに話たいこともいっぱいあったのに。お父さん、おとうさん。









数日後、お父さんの葬儀はあまりにもあっけなく終わった。灰になったお父さんを見るときには泣きすぎて涙すら出なかった。

それから更に1ヶ月が経ち私の精神もなんとか安定してきた頃に、家になにやら贈り物が届いた。なかなかおおきな段ボールに入っている。宛先人は、不明。
中を開ければちょっとだけくしゃくしゃの袋に包まれたくまのぬいぐるみが入っていた。かわいい、すごくかわいい。すぐに袋から出して抱きしめる。そして一瞬目を見開いて、更に強く抱きしめた。涙が出た。だって、くまのぬいぐるみからはほのかにお父さんの香水の香りがしたから。







(拝啓、そちらは天国ですか)
(いままでありがとう、)
(だいすき、だよ。)








拝啓、
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