次の日学校に来て、私はずっと亜風炉照美を観察していた。もちろんガン見とかをするわけではないが、こっそり、でもしっかり彼を見ていた。あのあと私は彼を苦手と思う以前に彼そのものを知らなさすぎたのだと感じたからだ。昨日だけで、彼と家が近かったことや彼が意外と饒舌なこと、なんだかよくわからない魅力みたいなものが彼にあることなどを知ることができた。そしてあの時の笑顔を思い出す度にもっと彼を知りたいと思った。彼を理解したいと思う自分がいた。こんなことを誰かに対して思うようになったのは初めてだ。
そして私は気づいたのだ。私が苦手だと思っていたのは私が好きだとも思った彼の笑顔であると。ただ単に笑顔といっても私が嫌いだと感じたのは張り付けたような彼の作り笑い。改めてみると本当になんだか気味が悪くなった。そして作り笑いを浮かべつつ、時折見せる悲しげな表情に、彼は、亜風炉照美という人間は本当は脆くて寂しい人間なんじゃないかと思った。 そして改めてあの時の笑顔を思い浮かべる。それだけで鼓動が速くなってきゅっと胸が苦しくなる。やっぱりあれは勘違いではなかった。私は苦手だと思っていた亜風炉照美に恋をするようになっていたのだ。
放課後私はいつもならさっさと家に帰ってしまうのだが、初めて自分から彼に声をかけた。今日日直だった彼は学級日誌を書く手を止めて私に振り返る。
「めずらしいね。どうかしたの?」 「話したいことがあって」 「何?告白?」 「ちっ、ちがうよ馬鹿」
そして彼が笑う。 これは私の好きな本当に笑っている彼だ。
「…それ、」 「?」 「作り笑いなんかしないでちゃんと笑った所、」 「え、」 「あたし亜風炉くんのそういう所は、好き、だよ」
彼は驚いて目を見開いていた。
「作り笑い、わかったのは君が初めてかもね。」 「わかるよそんなの。作り笑いしてる亜風炉くんは気持ち悪いもん。」 「傷つくなぁ。」
そして今度は柔らかく微笑む。
「君の、そういう風に素直な所。好きだよ。」 「すっすきって…」 「君が全く僕に興味を示してくれないから、意地になっていつも君のこと見てたんだよ。わかるよね?」 「え、あ、」 「顔真っ赤だよ?」
そう言って笑う彼に私はまたどきどきした。彼から目が離せなくなって改めて彼が好きだと思った。完全に恋に落ちたのだと感じた。
窓から吹き抜ける風に彼の綺麗な髪がなびいた。 オレンジ色に染まった夕日が教室を淡く照らす。 少し秋の匂いがした。
私は亜風炉照美という人間が苦手だった。でも今は
彼の笑顔、瞳、口元、指先、そして頭から爪先までもが私を魅力するのだ。
(それから2人が付き合うようになるのは) (また別のおはなし)
メロウ・メロウ
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