私は亜風炉照美という人間が苦手だった。

容姿端麗、頭脳明晰、おまけに性格は案外人当たりが良く、勿論女子にもてる。そんな人なら私だって好きになってもおかしくないと思うのだが、なんだか彼にはいつも違和感を感じていて、確かにちょっとかっこいいなと思うことはあったけれど、好きになることはなかった。寧ろ違和感を感じる度に、彼を苦手とするようになった。


私は彼の斜め後ろの席だ。だからどうというわけではないが、休み時間になるといつも彼のまわりには人が集まる。女の子が多いけど。私はその輪に積極的に入っていったりはしないし、私は友達と一緒にいることが多かったから、席が近いとはいっても特に彼と接点はなかった。


そんな彼は最近よく後ろの私を見てくる。最初はなんだかその意図がわからなくてぞっとしていたが、こちらを振り向く時に小さく微笑む彼の表情が、私は嫌いではなかった。むしろ微笑まれると少しどきっとして、自分は恋でもしてるんじゃないかという錯覚に陥った。でも沢山の友人達に囲まれている彼を見ると、やっぱり好きじゃないと思って、彼が私を見るようになってからというものの、私が彼に感じる違和感は大きくなるばかりだった。


初めて彼が私を見るようになったと感じてから結構経ったが未だに彼は私を見てくる。これは自惚れとかじゃなくて本当だ。そして必ず微笑んでくる。特に話しかけてきたりはしない。振り返って微笑む。それだけ。だけど私はその時の彼に必ず少しだけどきっとしてしまう。少しだけ、好きだと思う。でもそれと同時に嫌いだと思う。正反対の感情を交互に感じながら、やっぱり最終的にはそんなつかみどころのない彼が苦手だと思った。


ある日の放課後、私は授業中寝ていた罰として、先生にプリントをまとめて、ホチキスで綴じるという典型的な雑用を任される羽目になった。しかもなぜか150部。めんどくさいことこの上ない。しかし寝てしまったのは自分なわけで、今度から寝ないようにしようと心に決めつつ黙々と雑用をこなしていった。放課後は私は帰宅部だから暇だけど、大半の人は部活に行くため教室はがらんとしていて私がホチキスでプリントを綴じる音が響くだけだった。あと残り30部になり、疲れもでてきて少し机に突っ伏した。すると突然上から声が降ってくる。

「授業中寝てたんでしょ?」


いつの間に人が教室に入ってきたのだろうか、私は驚いてバッと上を向く。そこには斜め前の彼自身の机の上に座る亜風炉照美がいた。私がぽかんとしていると、彼は小さく笑った。

「君と話すのは初めてだよね。」
「え、あ、うん。」
「僕の事嫌いなの?」
「ちょ、ちょっとだけ。」
「はっきり言うね。」


そう言ってまた小さく笑って彼は私の机の上のプリントをまとめ始める。

「手伝うよ。僕はプリントまとめるから、君はそれを綴じてね。」

それから彼が手伝ってくれたためもあって、作業も思ったより早く終わった。隣にあるプリントの冊子の山を見ると、私がプリントをまとめた冊子は角がバラバラなのに対して彼がプリントを纏めた冊子は角もそろっていてきれいだった。ちょっと恥ずかしい。

「…手伝ってくれてありがとう。」
「いや、いいよ。それより君はこれからどうするの?」
「これ先生に出したら普通に帰るけど…」
「じゃあ僕も一緒に帰るよ。昇降口でまってるから来てね。」

それだけ言って彼はさっさと教室を出ていってしまった。なんでこんなことになったのか意味がわからない。よりによって苦手とする相手と一緒に帰るだなんて。大体彼は私をなんだと思っているんだ。今日初めて話しただけなのに。やっぱり意味がわからない。職員室にプリントを届けにいった後、昇降口に向かう私の足取りは重かった。


(やっぱりよくわからない)


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