わたしのとなりの席の不動くんはすごくいじわるというか恐い。だから色んな人に恐れられている。ちなみにわたしもそんな人の一人。この間席替えでとなりが不動くんって決まった時、神様を恨んだ。
不動くんの噂はよく聞く。例えば隣町の中学のボスみたいな人とタイマンはってぼこぼこにしてやったとか、万引きしたとかとにかくいい噂がない。噂で人を判断するのもどうかと思うけど、見た目もちょっとこわいし、やっぱり少しそういう目で見てしまう自分がいた。





不動くんはサッカー部だ。そんな私は帰宅部なのだけれど、帰るときにたまたま雷門グランドを見たら不動くんもサッカーをしていた。サッカーをやっているときの不動くんは、いつも授業受けてる時みたいに不真面目な感じじゃなくて、すごく真剣な眼差しでボールを追いかけていた。そんな不動くんの様子を見てわたしは少しどきっとしてしまった。

次の日も帰るときに雷門グランドを見た。どうやら今日は練習試合のようだ。不動くんは見事なドリブルでぐんぐん攻めていき、ついにゴールを決めた。あからさまに喜んだりはしていなかったけれど、口元だけ小さく笑っていたからちょっと嬉しかったのがわかった。それからもずっと不動くんばかり目で追っていた。

そんな風に毎日を送っていくなかで、わたしはいつの間にか不動くんのことが好きになっていたみたいだ。そのことを友達に話したら物凄くびっくりされて、やめときなよ!とまで言われた。わたしだって不動くんのことは未だにちょっと恐いけど、やっぱり好きなものは好きなのだ。だからいまではわたしを不動くんのとなりの席にしてくれた神様に感謝している。この前は恨んじゃってごめんなさい。





不動くんは相変わらず不真面目で、授業中、特につまらない先生の授業ではほとんどと言っていいほど居眠りしている。私たちは一番後ろの席だからきっとばれてないんだと思うけど。不動くんの寝顔を見る。いつもみたいに恐い感じはまったくしなくてむしろかわいいと思える寝顔だ。あ、意外とまつげ長いな。あと、髪の毛ふわふわしてる。そして改めて不動くんが好きだと思った。そんなふうに不動くんを見つめていたら、いきなり不動くんが目を覚ましてしまい、わたしとばっちり目があってしまった。不動くんは何も言ってこなかったけど、わたしは即座に目をそらして、ばくばくいう心臓を鎮めるのに必死だった。どうしよう、どうしよう。でも初めて不動くんと目が合ったのでちょっとだけうれしかった。

かも。





今日も帰り道に雷門グランドを見る。だけど今日は誰もいなかった。どうやら今日は練習が休みのようだ。つまんないの。だから今日はいつもの道をちょっと寄り道しながら帰ることにした。それにしても、どうしたら不動くんと仲良くなれるだろうか。付き合うとかそういうことよりもまずわたしはまともに不動くんと話した事がないし。そんなことばかり考えていると、急に腕をつかまれてぐいっと後ろに引かれた。目の前は赤信号。背筋がヒヤッとした。危なかった…。どうやらこの人は助けてくれたようだ。お礼を言おうと思ってふりかえると、そこにいたのは不動くんだった。わたしは恥ずかしさ心臓が飛び出ちゃうんじゃないかと思った。

「おい、おまえとなりの席のやつだろ。」
「う、うん。助けてくれてありがとう。不動くん。」「…別に。てか俺の名前知ってんの?」
「そりゃ、となりの席だし知ってるよ!」
「ふうん。知らないかと思ってた。」

どうしようどうしよう。わたし不動くんと喋ってる。どきどきする。顔が熱い。不動くんも制服だから帰る途中だったのかな。そういえばこの道を通って帰るのかな。あ、不動くん汗かいてる。てことは自主練でもしてたのかな。

「…おい!」

不動くんにほっぺをつねられてハッと我にかえる。やば、ぼーっとしてた。
するとそんな私を見た不動くんがため息をついたあと口を開いた。


「…送る。」

私は耳を疑った。
「へ?」
「だから、送るっつてんだろ!」
夢じゃなくてこれは現実だった。ほんとは跳び跳ねたいくらい嬉しいけどなんだか不動くんに申し訳ない気もしてきた。

「だ、だって」
「お前見たいなボケ女、見てるだけでヒヤヒヤするんだよバーカ。」

さんざんな言われようだ。少しムッとしたけどそんなこと言える立場じゃないのでここはグッと我慢だ。しかも仮にも好きな人の前で嫌な自分はみせたくない。
「でも…」

「なんだ?俺が怖いのかよ。まあ別にいいけどな。せいぜい気をつけて帰りな。」

「やだ!一緒に帰る!」


気がつけば私は少し大きめの声をあげていた。そして我にかえり、自分の言動を思い返して恥ずかしくなった。そんな私を不動くんは鼻で笑って「おもしれーやつ。」と言い、私と歩幅を合わせながら一緒に帰ってくれた。家に着くまでの間意外と話が弾んですごく楽しかった。なあんだ不動くんだって普通の男の子と変わりないじゃん。家に着いて不動くんにばいばいと言えば「じゃあな…なまえ」と言ってすぐに帰ってしまった。
不動くんもわたしの名前おぼえていてくれたんだ。





あの日からわたしは不動くんととても仲良くなった。どうでもいい冗談を言い合ったりして毎日が前よりずっと楽しくなった。友達にはかなりびっくりされたけどそんなことよりわたしは不動くんと話せて幸せだった。


帰り道、今日もグランドを見る。もはやこれは日課となっていた。しかし今日は練習がないみたいだ。またつまんないの。とおもいつつ寄り道して帰る。だって不動くんに偶然会えるかもしれないし。


あの時、不動くんに助けてもらった交差点に着いた。そういえばここで助けてもらってから仲良くなったんだっけ。すると別に赤信号で交差点を渡ったわけではないのに急にぐいっと腕を引かれ私はぐらりとバランスを崩しそうになった。視線をあげてみるとそこには不動くんがいた。

「よお。」

寄り道して正解だったみたいだ。





私は不動くんと一緒に帰ることになった。あの時と同じ。不動くんと話すのはやっぱり楽しい。もしかしたら友達といるときよりも笑ってるかも。それにこんなに不動くんと仲良くなれるなんて思ってなかった。わたしは最近いいことがありすぎだ。神様の気まぐれってやつ?


楽しい時間はあっという間。気がつけば家の前だった。名残惜しいけどまた明日会える。そう自分に言い聞かせてまた明日というと、不動くんが急に私の腕を引いていきなりキスをした。突然の事に嬉しいよりも先にびっくりした。
そして不動くんは私を抱き締めて、耳元で小さく「好きだ。」と言った。


神様私は幸せです。


わたしもすきだよと返事すると、目の前の不動くんは顔を真っ赤にしてもう一度わたしにキスをして走っていった。

やっぱりわたしは幸せだ。

有神論
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後半話の展開が早すぎてすいません;

最近あきおが好きすぎて毎日が楽しい^^


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