深く

「…今、なんと」
「だ、だから…もっと大人がするようなの、してください…」

触れるだけの口付けじゃない、もっと恋人らしい事がしたくて強請ってみたけど口に出したら消え入りたい位恥ずかしくなった。どうか二度も言わせないでほしい。

室内でふたりきり。
女房さんも下がってる。周りに人がいない。
ちょっとした話の隙間に唇が触れ合うだけの口付けをされて、つい……欲が出た。
ぐっと近付いた距離で長い睫毛が影を落とす彼の瞳を見ていられずに顔を逸らすと今度は耳元に唇が付きそうな近さ。

「構わないが…私がそれだけで済むかどうか、」
「え、あ、いや…じゃ、じゃあいいですごめんなさい、まだお昼ですしね、あは」

夜だったらいい訳でもない、まだ色々心の準備が出来てない。口付けの先を匂わす言い方に心臓が跳ね上がってしまう。
何とか笑って誤魔化そうとしながら手で友雅さんの体を押して離れようとしたのに逆に手首が捕まって、もう片方の手は背に回されて反射的にマズい、と思った。

「いや、折角だから頂いておこう」
「えっ、ん……っ!」

再び重ねられた唇は声を上げた事で半開きだった私の唇の内側に吸い付くように合わせられた。友雅さんが瞼を伏せているから私も慌てて閉じて身を固くするしか出来ない。

角度を変えて何度か唇を食まれるうち湿り気のある音が響きだして耳を塞ぎたくなったのにそんな事はお構いなしに体の強張りを解くように優しい口付けが続いて、肩の力が抜けそうで咄嗟に掴まれていない方の手で友雅さんの着物の裾を握ったとき……熱を持った舌が口内に差し込まれた。

「ん…、」

入ってきたソレは強引に暴れるでもなく私の舌を舐めた。応えなくちゃいけないと恐る恐る同じ様にしてみるとまた優しく舐められて。そのまま続けるうち、舌をちゅっと吸われるのにも慣れて、鼓動はさきからずっと五月蝿いのに頭は段々ぼーっとしてくる。

回された手は私の背を滑らかに撫でるし、捕らえられた手首は解放されて互いの手指を絡ませてる。触れている境界線があやふやに感じて、どちらのものか分からなくなって交ざってしまいそう……それが心地いい。

ずっと続けばいいなんて頭に浮かんだ途端にひとつ音を立てて舌が離れていってしまって、無意識に追いかけようとすると友雅さんの指で濡れた唇を押さえられた。

「はい、おしまい」
「……もう?」
「参ったな……そんな顔をしないでおくれ。私の我慢がきくうちに止めないと、ね?」
「は、はい…」

今どんな顔をしていたのだろう。急に羞恥が戻ってきて俯く。身体の至るところがじんわり熱い。


「――千紗の心の準備が出来たら、続きをしてあげよう」


耳元でそう囁かれて私は暫く顔を上げることが出来なかった。
いつかもう少し勇気が出たら……また強請れるだろうか………。




深く愛して

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