友雅夢、銀時 | ナノ

夜櫻


人気の少ない小さな神社。そこに枝垂れ桜が一つだけ植えられていた。どこも見頃を迎え名所には夜になろうとも花見客が押し寄せていたがこの神社は例外で、やる気を感じさせない薄ぼんやりとした外灯に照らされその輪郭を露にする、満開をやや過ぎた桜は今は二人だけの物であった。

「少し、散り始めてましたね」

ざり、と踏んだ砂にも既に散った花弁が混じっている。よくよく目を凝らせば敷物のように濃いさくら色が広がっていて避けるのは難しい。二人は桜の木の側まで寄ると足を止め、見上げては春の訪れに感じ入る。

花を愛でる事は好きでも人が多過ぎる事に辟易したのは友雅の方で、それならばと散歩ついでに密やかなる名所を探して辿りついたのが、普段なら見落としてしまいそうな程に小さく木々に囲まれたこの神社だった。

「綺麗だね。慣れたとはいえ此方は明る過ぎるから…この位が丁度良い」

そう言って瞳を細めた友雅が目線と同じ高さの花枝に触れる指先は繊細で、女人を扱う様だとその艶やかさに千紗は人知れず頬を染めた。

サアア…と周りの木々が強い風に揺れる。
それは枝垂れた桜も友雅の柔らかな緑髪も巻き込んで浚い、靡かせた。その様がまるで、桜ごと彼が薄闇の向こうへ連れ去られてしまうようで千紗はハッと息を飲む。
そして知らず知らずに確と友雅の腕を掴んだ。

「千紗?」
「ご、ごめんなさい…何だか友雅さんが…」

“攫われてしまうようで”、と心許なく小さく付け足せば瞬間、彼は微笑んで自らを捕まえるその手を引き彼女の身体を抱き寄せた。

「大の男が桜に攫われはしまいよ」

そうは言っても彼は元々異なる世界の人間だ。いつ引き戻されてもおかしくはない。

赤子をあやすように背中を撫でられながら千紗は拭い切れない不安に苛まれ、温もりを離すまいと強く抱き返した。

「…こうしていれば、何処へ飛ばされようとも共に行けるね」

再び風に揺れる枝垂れ桜が二人を包み、この世と隔離されたった二人きりになってしまった気すらする。
それでも目の前の人と一緒に居れるなら千紗は何も恐ろしく感じず寧ろ望むばかりで、ただただ身を委ねて目蓋を閉じた。


重なりゆく唇に、永久の願いを込めながら。


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