友雅夢、銀時 | ナノ

いみてーしょんぱひゅーむ


「急にごめんね、銀さん」

家の電気が壊れて使えない、交換方法も分からない、なんて並べ立てて彼が万事屋である事を利用して呼び立てたとある休日の昼下がり。
自分の家に想い人がいる光景に嫌でも胸は高鳴る。香なんて焚かなくても、千紗の心は目の前の人物に持っていかれたままだ。

「や、別に暇だったから構わねぇけどよ」

千紗が適当に解体した電気をがちゃがちゃと弄りながら気怠く言う横顔に見惚れていれば、器用な手に掛かり電気がすぐに直ってしまいそうで慌てて用意していた甘味と飲み物を持ってくる、と台所に引っ込んだ。

お盆に甘ったるいイチゴ牛乳と茶菓子…そして火をつけたお香を乗せて部屋に戻ると、ちょうど作業を終えたらしい彼が胡坐をかいて待っていた様で桃色の好物と菓子に一瞬瞳を煌めかせたが同時に部屋に広がる煙を確認したのか顔を訝しげにしかめた。

「何、ソレ」

盆の隅で真っ直ぐに立ち上る細く白い煙は、僅かな沈黙の間にも広がっていきすぐに鼻腔まで届き、ほのかに伽羅が香った。ちゃぶ台の真ん中に何気なく置いて、茶菓子とイチゴ牛乳は彼の前に。なるべく口角を上げて笑いかける。

「可愛い、でしょ?流行ってるんだって、今」

「ふーん…」

だからつい買っちゃった、と続けて言えば、彼は気のない相槌を返して出された茶菓子をつつき口へ運ぶ。

――騙して惚れ薬を嗅がせて一時でも…。なんて、らしくない悪巧みが上手くいくのかの瀬戸際で『大ヒット商品と書いてあったのだから、流行っているのは嘘じゃない。』と、これ以上嘘を重ねたくなくて自分にそう言い聞かせながら反応を窺う。既に気があった自分には効いているのか分からないから、相手を見て効力を見極めるしかないのだ。

銀時があっという間に食べ終え楊枝を皿へ放ると、千紗に対して向き直り、まじまじと顔を見た。

「なんかさぁ…」

「うん?」

「今日のお前…可愛いな」

どくん、と心臓がこれ以上ない位に跳ねた。さっきまで甘味に釘付けだった赤い瞳が此方に向いていて、千紗も視線を逸らせなくなる。散々願った”自分しか映さない坂田銀時の瞳”がすぐ目の前にあるから。

「そっ、そそそう!?気のせい、じゃない?」

「いや、マジマジ。…そんなにめかし込んで、俺を家に入れちゃってまァ…何、抱かれてぇの?」

「だっ…!」

千紗は失念していた。この男は原始的で直球すぎる言葉を浴びせてくるんだと。にたりと厭らしく笑う破壊力たるや、どこぞの星人の戦闘力五十云万を優に超えている。
仕組んだのは此方なのに赤らむのは自らの頬ばかり。

PREV  BACK  NEXT

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -