友雅夢、銀時 | ナノ

いみてーしょんぱひゅーむ


―――遡れば、
一連の事件に巻き込まれた知人数名の体験談を聞いたのがきっかけで。
散々やらかしたらしい、と。少女から熟女までハントしようと口説いていたとか、死神太夫との話とか。
その光景を思い浮かべただけでザワザワと胸が騒ぎ始め、抱きたくない汚い感情が内から溢れそうで仕方なくて、醜い自分を打ち消したくて、いつもの笑って済む話なんでしょうと根掘り葉掘り聞いてみれば、結果的に取り返しのつかないほど落ち込んでいる自分がいた。

こんなに聞いてどうしたんだと問われて”彼がどんな目に遭ったのかと、心配したから”と。気丈に笑って振舞っていたつもりだったが、心配そうに此方を見る妙には本心は透けて見られているようだ。

「千紗ちゃん…。あれは本当に事故だったみたいだし…その、あまり気にしちゃ駄目よ」

「お妙ちゃん…ありがとう。大丈夫だよ」

自分のやったことは綺麗に棚に上げながら事の次第を説明した妙は、浮かない顔の千紗に話すべきではなかったかと後悔すらした。
けれども人前で涙を見せるタイプでないのは自らと同じである彼女が、禄でもない男と知っても尚密かに想いを持ち続ける彼女が辛そうに笑っているから、妙はこれ以上口を開くことが出来なかった。


その日の帰り道、千紗はいつもだったらそのまま顔でも見に行こうかと甘味を手土産に携えて訪ねる万事屋も通り過ぎ、真っ直ぐ一人住む家賃の安い平屋の自宅へ戻った。


…それから暫くは、余計な事を考えないように仕事で自分を追い込んで忙しく過ごしていたというのに、息抜きにと買った雑誌にそんな広告があったものだから、思わず深いため息を吐いて、今へと至る。
胡散臭い煽り文も傷心の千紗には蠱惑的な謳い文句に変わり、つい…魔が差した。

駄目元でも、一瞬でも…これで私の方にも向いてくれるなら。

そんな考えが過って数日後、気が付いたら飛脚の青年から荷物を受け取っていた。
それらしいハートをかたどった包みと添えてあった薄い取扱説明書。

『薬の効力は12時間。焚いて煙を吸った直後に見た相手に恋慕を抱きます。使用は慎重に行ってください。なお、効果には個人差が御座います』

「はは、適当だなぁ」

手の中の薬に、どれだけの効果が発揮されるのかは分からない。
でも、一世一代の告白をするきっかけと思えば、そしてそれが玉砕しても言い訳くらいにはなってくれるだろうと思えば、安いものだ。

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