るりいろのおと


鍾会・姜維殿の討伐が終わった。

私は劉禅様の護衛を任され、
この陣に臨んでいたけど……

総大将の鍾会が斬られ、戦いに終止符が打たれたとき。

(これで、蜀は本当になくなったのだ。)

そう、思った。

自分と皆の安寧を願い、魏に降伏した劉禅様と、
丞相の志を受け継ぎ、国力が疲弊してもなお北伐を続けた姜維殿。
その二人が対峙した、先の戦いの勝者は劉禅様だった。

どちらが正しい、とかではなくて
父上たちの時代は、確かに終りを告げたのだ。
その事実を受け入れていく自分がいる一方で、
寂しい、と感じてしまう自分もいた。



戦が終わり、退陣命令が出ていた。
幕舎が片付けられていく中、
地平線の向こうは白んできている。
もうすぐ、長い長い夜が明ける。

ふと、整頓の手を休め、背をうんと伸ばした。
劉禅様の姿が見える。
一人で、少し前まで戦場であった方向へと向かっている
まだ残党が残っているかも知れないのに…

私は急いで後を追った。

「劉禅様っ!お一人で何処へ…!」
「――あぁ、珠美か……少し散歩に行こうと思う」

いつもの穏やかでゆったりとした口調。でも、表情は冠の影で翳って完全には見えない。
憂いを帯びているように思うのは、気のせいだろうか…。

「…お供しても、宜しいですか?」
「うーん…珠美なら良いぞ。では、ついてきてくれ」

そう言って、劉禅様は歩き出した。
周りを警戒しながら、私も後に続く。
その間、言葉を交わされる事は一度もなかった。



突然、足が止まった。
ただ道の真ん中で。
劉禅様は私に背を向けたまま、俯いて地を見つめた。

「確か…ここだ」
「ここ…?」
「私が、姜維を斬った場所」
「……!」

私は、あの時のことをよく覚えてない。
それ位に戦いに必死であった。姜維殿も、その間に…。

しかしここ一帯は、無惨な光景が広がっている筈なのに、
やけに綺麗に片付けられていた。

「劉禅、様…」
「司馬昭殿が、片付けてくれたのだろうか…」
「そうかも、しれません」

あの方は、劉禅様の機敏に何処か敏感だ。
ここに来ることを想定していたのかもしれない。

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