るりいろのおと 鍾会・姜維殿の討伐が終わった。 私は劉禅様の護衛を任され、 この陣に臨んでいたけど…… 総大将の鍾会が斬られ、戦いに終止符が打たれたとき。 (これで、蜀は本当になくなったのだ。) そう、思った。 自分と皆の安寧を願い、魏に降伏した劉禅様と、 丞相の志を受け継ぎ、国力が疲弊してもなお北伐を続けた姜維殿。 その二人が対峙した、先の戦いの勝者は劉禅様だった。 どちらが正しい、とかではなくて 父上たちの時代は、確かに終りを告げたのだ。 その事実を受け入れていく自分がいる一方で、 寂しい、と感じてしまう自分もいた。 ◆ 戦が終わり、退陣命令が出ていた。 幕舎が片付けられていく中、 地平線の向こうは白んできている。 もうすぐ、長い長い夜が明ける。 ふと、整頓の手を休め、背をうんと伸ばした。 劉禅様の姿が見える。 一人で、少し前まで戦場であった方向へと向かっている まだ残党が残っているかも知れないのに… 私は急いで後を追った。 「劉禅様っ!お一人で何処へ…!」 「――あぁ、珠美か……少し散歩に行こうと思う」 いつもの穏やかでゆったりとした口調。でも、表情は冠の影で翳って完全には見えない。 憂いを帯びているように思うのは、気のせいだろうか…。 「…お供しても、宜しいですか?」 「うーん…珠美なら良いぞ。では、ついてきてくれ」 そう言って、劉禅様は歩き出した。 周りを警戒しながら、私も後に続く。 その間、言葉を交わされる事は一度もなかった。 ◆ 突然、足が止まった。 ただ道の真ん中で。 劉禅様は私に背を向けたまま、俯いて地を見つめた。 「確か…ここだ」 「ここ…?」 「私が、姜維を斬った場所」 「……!」 私は、あの時のことをよく覚えてない。 それ位に戦いに必死であった。姜維殿も、その間に…。 しかしここ一帯は、無惨な光景が広がっている筈なのに、 やけに綺麗に片付けられていた。 「劉禅、様…」 「司馬昭殿が、片付けてくれたのだろうか…」 「そうかも、しれません」 あの方は、劉禅様の機敏に何処か敏感だ。 ここに来ることを想定していたのかもしれない。 |