せめてもの仕返し


外から麗らかな春の日が差し込んでいる
しかし執務室には膨大な量の竹簡や書物
それに埋まる文机
そんな文机に青い顔を埋めている一人の文官がいた。
寝不足には昼の強い日差しは目にしみる。
視界がチカチカする。


「お、終わらない…こんなの無理だぁ…」


半べそをかいているのは曹魏において極々平均の能力しか持たない文官珠美である。

戦の最中にも文官は都に残り将軍・軍師の雑用やらを肩代わりし己れの職務もこなす。
過労で命を落とすのではないか、という状況であった。


そして先日、無事に勝利を収めた曹魏
自分の上司が帰ってきたのをこれほど喜んだことはない。
そして解放される執務!



……のはずが


「なんで…なんで賈ク様が帰ってきたのに私がやってるのぉ…」


未だに珠美は解放されてはいなかった。
将軍たちは凱旋を終え、皆が少しずつ普段の日々に戻ろうとしているというのに…。
珠美の上司である賈クは都に戻った早々休む間もなく戦の後処理に追われているらしく、珠美の仕事も減ることはなかった。
「失礼。賈ク殿はいらっしゃるか」



もうやる気も底ついて筆を手で弄んでいた珠美は突然の来客に慌てて立ち上がった。


「ちょ、張遼将軍!賈ク様は、その…あいにく不在でして」

「む…またか。貴殿らはまだ忙しいのだな。」



本来は他の者や珠美が片付けているはずの部屋の散乱っぷりを目の当たりにして、張遼は少しばかり気の毒そうにこちらを見ている。
何せ皆出払っていて珠美もこの状態だ。
とてもではないが部屋掃除など出来る余裕はなかった。


「すみません…このような有り様で…全くうちの軍師様はどこをほっつき歩いてるのか」

「あははあ 言うねぇ珠美殿」


「!!」


賈クの姿が見えないのに声がする―
辺りを見回すが姿は何処にもない。
すると張遼の後ろからひょっこりと賈クが顔を出した。
長身の張遼で隠れていたらしい上司はいつもの胡散臭い笑顔だった。

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