あなたの隣で



魏に仕える一女官。
ただ生まれ故郷が曹操様の領地内で、多少の教養を身につけていた私は、成人してすぐに城仕えの女官となった。こんな職場で恋に落ちるなんて、当時の私には考えられなかっただろうな…。


「珠美殿、この度はおめでとうございます」

「あ、張コウ将軍…」

「貴女が、まさか賈ク殿と恋仲になるとは思ってもみませんでしたよ。でも…お幸せそうですね」

「そ、そんな…」

にっこりと優雅に微笑む張コウ将軍は、私の元配属先の将軍。未だ城でよくお会いするので、こうして立ち話をする事が多いのだけれど…つい先日、文和殿との関係が皆に知られてしまって、将軍にも突っ込まれてしまった。想いを馳せていた最中で顔が緩んでいたのか、顔を見るなりそう言われ、私は縮こまった。は、恥ずかしい…。

「照れずとも良いではありませんか。恋は人を美しくします。今の貴女はとても美しいですよ」

「も、もう止して下さい…」

顔から火が出そう。火照る頬を手でおさえる私に「二人が夫婦になる際には美しい調度品をお贈りしましょう」と嬉しい申し出を受ける。けれど恐れ多くて断った。何だか、茶化されてる気がする…。
話を切り上げて、将軍と別れてから、一人、廊の長椅子に座り、皆に知れ渡ってしまった経緯を頭を抱えて思い出す。




私だって文和殿と恋仲になるなんて、最初は思っていなかった。配属が変わった先は文和殿の下。何を考えているか解らない人だ…と傍で仕えて百日経っても思っていた程だった。

『乱世を打算で渡る』が座右の銘。そんな曲者軍師の彼に、あっさりと陥落したのは、突然の真っ直ぐな、打算抜きの愛の告白をされた所為。

「俺はあんたの事が好きだ。まぁ、賢い珠美なら、本気か分かるだろ?」

いつもの御茶を、いつものように出したら手を掴まれ、そう言われた。手から伝わる熱と、長く見てきた瞳の中の真意に、心を射抜かれてしまった、という訳。

それでも、周りに関係が変わった事は言わなかった。身分違いの恋であるし、文和殿も他人に自分の事情を語らない性格だったから。露見することなく、続いていた交際。でも、そんなに長く秘密が続くはずはなくて…。

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