用務員さんと私-夏休み・二章-




夏、真っ盛り。

汗だくになりながらも、今日も美化活動中。

仕事は至ってスムーズ。滞りなし。



の、はずが…。


「よし、ここを締め直せば後は終わりだな」

「やった!」

「んー…あれ、レンチがないな…」

「私の記憶が正しければ、こないだ賈クさんが捨ててましたよ」

「……まじで?」


郭嘉先輩が言ったように、先々週辺りに、レンチがボロボロだから買い換える!と高らかに宣言し、不燃ごみとして捨てていた。お盆休みを挟んだからか、賈クさんはすっかり忘れていたようだ。
こういうドジを踏むのは賈クさんらしくないが、この猛暑…。全てを忘れて休みを満喫したいという願望は当然浮かぶもの。休日何をしていたかは聞き出せなかったが、きっと賈クさんの事だから部屋でダラダラしていたんじゃないかな、と推測。

「珠美、何か失礼なこと考えてただろ…」

「えっ!いやいや、そんな事ないですよ?」

「…ま、いいが。珠美は俺と残業な」

「えぇぇぇ!」

「いやだから、不満そうな声あげてるけど顔笑ってるからね、あんた」

だって賈クさんと二人きりなんて、期末テストの前以来…!
尻尾があったら全力で振ってしまっていただろう。喜ぶ私をよそに話は進む。

「俺とこいつでホームセンターで道具買ってくるから、郭嘉はもういいぞ」

「それは助かります。では、これで失礼するよ」

「おう、気をつけて帰れよー」

「あっ、お疲れ様でした!」

何故郭嘉先輩だけ、残業免れたんだろう。賈クさんが私と二人きりになりたいから…なんて流石に思わないけれど、何か思惑があるのか…。考えを巡らせど答えは出ず。先輩が立ち去って暫く間があって、賈クさんが「あいつ、あんま身体良くないらしいんだ」と零して私は驚いた。そんな風にはとても見えなかったから。テニス部でも、エースだったし…。謎が深まる郭嘉先輩の事情だが、賈クさんはそれだけ言って、次の行動に移ろうとしていた。


「さぁてと、じゃあ行きますか」

「ホームセンター、どこにあるんですか?」

「ちょっと遠いんだが…珠美は自転車…ないよな、確か」

「あ、歩きです…」

もしかして…この流れ…憧れの自転車二人乗り実現!?
後ろに座って賈クさんの腰に手を回して、彼の背中に寄り添う姿を想像して一気にハイになりそうな私のテンションを落としたのは、当然ながら賈クさん本人で。

「はい、これ自転車の鍵。教員用の駐輪場に二、三台あるから」

「……」

「何で不満そうなんだ、ん?」

「何でも、ないです…」

願望を見透かされた上での行動なのか、心なしか賈クさんの笑みが意地悪だ。大丈夫、これくらいでメゲたりはしない。珠美ファイト…ゴーファイト…。
自分を励ましながら駐輪場へ向かい、目的地を確認する。

「ダイユーセブンだからな。ほら、スーパー近くの」

「あー…何となく見たような…」

「ま、俺についてくれば問題ない。行くぞ〜」

夏の熱い日差しが降り注ぐ中、いざホームセンターへ。
前を走る賈クさんに、どうしても視線は釘付け。いつものツナギは上半身部分を腰でくくっていて、上は白いTシャツ…。身体の線は細いけど、意外と筋肉がついていて、見惚れてしまう。週二回もある活動中で、何度も何度も見ているのに、それでも胸のときめきは止まらない。


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