せめてもの仕返し


それから三日ほど経った。
体調は微熱を感じる程度で、寝不足と疲れで倒れたのだろうと、医学に通ずる先生に言われた。
念のため薬草などを煎じたものを飲まされたが、苦くて苦くてもう二度と飲む気になれない。

しかしそのおかげか、身体が軽く、元気が戻ってきた気がする。
邸内で軽く散歩をしたり、長いこと溜めていた書物の消化などで過ごし、十分に心身を休めた。
明日からの出仕には問題ないだろう。
筆を執り、上司への書簡を書いた。


本当はいろいろ気になっていることはあるけど、仕事には出なければ…。



それから数刻過ぎただろうか。
相変わらず読書に耽っていたがバタバタと慌ただしい足音が聞こえ、それが近づいてきた。
自室の扉が勢いよく開け放たれる。今朝書簡を手渡した女官だった。


「珠美様っ! 申し訳ありませんっ!」

「ど、どうしたの?」

「書簡をお渡ししたらそのまま賈ク様がこちらに…一応、客室で暫くお待ちいただくように言ったのですが、それが…」

「えっ ちょ、ちょっとまって!」



自分の身なりを整えようと急いで化粧台に向かう。
休日で人と会わないとばかり思っていた珠美は、薄化粧のみで服もほぼ寝間着。
こんな恰好で会えないっと帯に手をかけたときだった。


「お邪魔するよ」


「!!」


振り返るといつもの上司がいる。
どうやら女官は引き留めて置けなかったようだ。
申し訳なさそうに礼をして、そそくさと部屋を退出していった。

―まあ、主人の上司に失礼はできないからね……。

帯にかけた手をおろす。賈クの方を見やると、やや厳しい表情でこちらを見ていた。


「あ、あの…」


「こないだは、すまん」


怒っているのかと思ったがどうやら違うらしい。
いつも人相が悪いから分かり辛いのよね…などと失礼なことを考える。
謝罪が先日の愛の言葉を打ち消すことを指しているのか、それとも自分が過労で倒れたことなのか…。
ずき、と胸に痛みを覚える。
そんな珠美の思いとは裏腹に、賈クは距離を縮め珠美の手を取った。


「さすがに俺もやりすぎたと反省してね…」

「それは、どういう…」

「…怒らないって約束するか?」


まるで子供のような発言に違和感を覚えた。手を握られていることより、その物言いが気になる。


この人は何を隠している…?

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