せめてもの仕返し


…どうしよう、何されるんだろう


不安げに見つめていると意外な言葉をかけられた。


「んー珠美殿、少しやつれたか?」

「…へ?」


思わず拍子抜けの声を出してしまったが、賈クは申し訳なさそうに苦笑いするだけだった。



「長くこちらを離れていてすまんね。」
 

「い、いえ!大丈夫ですっ!」


ここ数日、賈クには会えていなかった。久しく顔を見なかった部下がやつれていたのだ。いかに賈クといえど悪く思ったのか…。
―冷酷非道と言われても、自分の部下には優しい人なのかもしれない。

上司の手前虚勢をはったが本当はもうボロボロだ。
そんなことは見抜いているのか労るように頭をくしゃっと撫でられた。
賈クはいつものように笑っているが、よく見ると目の下にクマが出来ている。

―自分も寝不足で疲れてるでしょうに…

優しく扱ってくれる賈クに、珠美は先ほどまでの警戒心を忘れ完全に心を許していた。


「よしよし」

「賈ク様、私は猫ではありませんよ。」

「んーそうだったかな?」



口ではそういうものの、満更でもない珠美は大人しく撫でられていた。
ニッと口角を上げて笑う賈クも心なしか満足げに見える。


「じゃあ、俺はもう行く」

「えっ…もう行っちゃうんですか?」


尊敬する上司に労ってもらえて、嬉しくない部下はいないだろう。
そう言い訳して心地よさに身を委ねそうになったが、賈クはさっと手を離してしまった。


「あ……」

「ん。なんだ、足りなかったか?」



つい名残惜しい、というような声が出てしまった
いつの間にか頬が熱い

きっとニヤニヤとこちらを見ているであろう上司の顔が、見られない。
な、なんて失態をしてしまったんだろう…


「そうかぁ…そんなに俺がいなくて寂しかったんだな珠美殿は」

「ち、違います!」

「あんな嬉しそうに撫でられてねぇ」

「〜〜っ!もう知りません!賈ク様なんて、ど、何処へなりと行けばいいです!」



折角嬉しかったのにからかわれて台無しだ。というか、恥ずかしい。
声を荒げて言い放ち、文机の方に戻ろうと賈クに背を向けた


――瞬間、肩を後ろに引かれバランスを崩す


「わっ!」

「まぁまぁ、落ち着きなさいって」


身体はそのまま賈クの腕の中にすっぽり収まってしまった。
後ろから抱き締められる形になった今、賈クの表情は見えない。
未だ赤い顔のまま振り向く事も憚られた。


「ちょっ…」

「大事な話があるから、ちゃんと聞け」


耳元に賈クの息があたってくすぐったいのに、お構い無く喋りだす。
このまま恋仲の男女のような距離で仕事の話なんて、無理だ。
賈クは平気でも、自分にとっては憧れの人に抱き締められてそれどころじゃない。
先ほどからかわれたせいで、余計に意識してしまう。


「むっむむむむ無理です!離してくださっ」


「俺はあんたが好きだ」




理解出来ず、固まる。
仕事の事とか先の戦の事とか、そういった類いの話だと覚悟していたのに


「だから、俺のものになってくれ」


賈クは言葉を続けるが、まだ意味が分からない。
頭がクラクラする。全身が熱い。
疲労のせいなのか賈クのせいなのか分からないまま、意識が遠のいていった。
「…あれ?珠美殿? …おーい」

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