るりいろのおと


「……珠美、見ていてほしい」

言いながら、劉禅様はしゃがみ込んで地面を撫でた。
愛しい者に触れるように、優しく…。
その姿はまるで聖人の様。なのに、とても哀しく映る。

「花を、ここに」
「花…?」
「あぁ、摘んできたのだ」

彼が懐から取り出した花は、鮮やかに紫の色を付けた綺麗な竜胆
その持っていた3輪ほどを、
先ほど撫でていた土の上に置いた。

「先人たちの遺志も、それに縛られた者も、安らかに…」
「…っ」

あまりも優しく、穏やかな祈りの声。
瞳を閉じ、私も願う。

これから迎える時代の幕開けを、

劉禅様を、

残った私たちを…どうかお守りください。


「珠美」

呼ばれて目を開けると、
溜まっていた涙が零れ頬を伝った。

「そなたが一緒でよかった。一人だったら、引き返していたかもしれない」

目の前にいる劉禅様の笑みは、いつものモノでなかった。
まるで、泣くのを堪えているかのような…。

「私は、私の道を行くことに決めたのだ。残った皆と…珠美と、な…」

まだ涙の止まらぬ私を抱きしめ、ぽんぽんと子供をあやす様に背中を叩いてくれる。

「ついて来てくれて有難う、珠美。これからも、私の傍にいてくれると…嬉しい」
「ずっと…ずっと、お傍におります…」
「あぁ…」

聞こえてくる、劉禅様の鼓動…
その音すら優しく、いとおしい。


もうすぐ暗く長かった夜が明ける

見上げれば、まだ薄暗く、空は瑠璃色

夜と朝の境目で、私たちはただ立ち尽くしていた。


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