なみだもわすれて


「しょ、将軍、戯れは…っ」
「私は戯れに、女性を抱くことも贈り物もしませんよ」

ハッキリとした声
至近距離でいつになく真摯な瞳で見つめられ、抜け出そうと捩らせていた身体の動きが止まる。戯れでないと言われても、心は惑う。
なんで…じゃあ今までの、贈り物は…?

「…将軍は、女であることを忘れないように、と」
「たまには武装した姿ではなく、美しく着飾った貴女が見たかったんです」

叶いませんでしたけどね、と溜め息をつかれてしまった。
そういう意図とは知らず…申し訳なくって、縮こまってしまう私に将軍は「でも、」と続けた。

「この花を見て気付いたのです。貴女は、私と同じように戦場でこそ輝く花だから…こんなに心惹かれるのだと」

ただ穏やかに、優しく。紡がれる言葉に嘘や戯れなどではないと分かる。

「このような飾り気のない私でも、その様に思ってくださるのですか」
「勿論。ですが、これからは私が珠美を飾ります。覚悟してくださいね」

私のようだと言った小さな花を、かんざしのように髪に挿してくれた。
張コウ将軍の表情は、自信に満ち溢れた笑みに変わっている。
嗚呼、華やかなこの笑みが愛しい。
ずっと前から、将軍という花に魅了されていた自分に気付く。


「愛しています、珠美…」


唇が自然に重なったとき、花の香がふわりと広がった。


**********

(張コウ軍は美しい物を発見したら、報告する義務があるそうです)

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