男だって素直が一番



目覚めてカーテンの隙間から外を見ると大分日が高く昇っているようだった。
隣で寝ていたはずだった珠美がいない。若干二日酔い気味で痛む頭を抱えて見渡すと、ベッドサイドにあるランプ下に可愛らしい包みに手紙を添えて置いてあった。遅れてきたサンタクロースか?目をこすって手紙の封筒を見ると筆記体でハッピーバレンタインとでかでかと印字されていて、ようやく気づいた。俺、チョコ貰ってない。バッと起き上がりすぐさま中の手紙を取り出して読む。
『昨日のうちに手渡せなくてごめんなさい。文和さんが他の人からチョコをもらっていたらと不安で、勇気が出なかったんです。見た目はあまり良くありませんが、よかったら食べてください。お邪魔しました。 珠美』

「何気にしてんだよ、アンタ」

そう独りごちて、そんな心配しなくてもここ数年は会社の女性社員からの義理チョコも廃止されて郭嘉からのお裾分け以外貰ってないと思い返す。あれ、俺格好悪くないか…?少々虚しくなりながら赤みの強い紫のリボンを紐解いて箱を開けると、不均等に並んだ念願のチョコが顔を覗かせてそれを一つ手に取り寝起きの口に運ぶ。酒の香りがふわりと香る生チョコの甘さは丁度いい。が、何か足りない。

もう一つ口に投げ入れ食いながらリビングに移動して携帯を取り出して電話をかけた。原稿の催促の為に作家にかけるんじゃない、珠美だ。

『もしもし…』

控えめな珠美の声ともに電話越しに電車のアナウンスが聞こえて、途切れとぎれな単語をなんとか聞き取ると、まだ俺の家の最寄り駅にいるんだとわかった。

「美味かったけど、俺はチョコだけ欲しかったんじゃないんだぞ」

『えっ!あ、でも、その』

「いいから、戻ってこい。そんで…もう一回、直接手渡しで俺にくれないか」

『は、はい…っ』


電話を切ると、大きく溜め息をついてソファーに身体を沈めた。結局強請る形になって、情けない。だが、しょうがない。俺も貰えるか不安になってたが、相手も不安だったんだ。そうと分かれば手の内全部さらけ出して、降参するしかないよな。
照れ屋で、けれど律儀な性格の彼女を迎えるために、もう一度起き上がる。伸びをしながらこれからの事を考える。

一回、ちゃんと言った方がいいかもしれない。



「チョコレートはアンタのしか受け取らないから」

「あと、なんか不安な事があったらすぐ俺に言うこと」


「…珠美、好きだ。だから、俺にチョコレートください」



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