男だって素直が一番



会社からすぐ近くのコンビニの前に行けば、寒いだろうに缶コーヒーを両手に持った珠美が立っていた。
俺の存在に気付いたのか顔を綻ばして手を振り出して白い息を見せながら口パクで呼んでいて、喜びすぎだろと呆れる半面やっぱ可愛いなと直接は言えない感想を思いながら、彼女の前まで行く。
近づけば一瞬、珠美の視線が俺の荷物に移ったのを俺は見逃さなかったが、それについては見て見ぬフリをして声をかける。

「よっ、お待たせ」

「こんばんは!突然すみません」

「いや、丁度定時だったから。中で待ってれば良かったんじゃないか?」

「あはは、コーヒー買ったら居づらくなっちゃって、すぐ出ちゃいました」

コンビニの方を指差しながら言うとそう返され律儀な性格が裏目に出たのか結構待たせてしまったようで申し訳なくなった。
すぐ飲み干してしまったという缶コーヒーを店の前のゴミ箱に捨て横に並んで歩き出す。
こんな日だ。たまに食事に行く雰囲気の良いレストランも要予約、いい所で待ち時間が長いとかそんな状態だろう。とりあえず駅に向かうが目的地に悩み顎髭を摩っていると俺の目線よりやや低い彼女が顔を覗き込んできた。何だ、チョコか?チョコくれんのか?



「どこ行きます?」

違った。完全に肩透かしをくらったが、自分から言いだしたら負けだ。行き先についての話題に気持ちを切り替える。

「ああ、それを考えてたんだがなぁ…。うーん…家に来るか?」

「へっ」

間抜けた声を上げて分かりやすく瞼をしぱたかせて動揺を見せるのも無理はない、誘ったの初めてだし。まだ付き合って一ヶ月、逆に年を取るとすぐ取って食う気も起きず柄にもなく大事にしている関係はキス止まり。当然家に上げた事も、上がった事もなく。足を止めて俯いて考え出すのを見ると俺だって不安になる。先から密かにチョコレートを期待してる訳だし。
そんな期待と不安をよそにバッと顔をあげたかと思えば此方を何だか一大決心したように拳を握り「お邪魔します!」というので思わず吹き出して「決闘じゃないんだから」と軽く突っ込みながら自宅に向かうことになったのだった。


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