あなたの隣で




そうして気を利かせて、その場を後にしてくれた郭嘉様だったけれど、当然、私たちの関係は表立って噂になった。私は同僚の間で質問責めを食らったし、文和殿は公認発言をして周りを驚かせた。その結果が、今に至る…。
思い出してみると、何とも言い難い羞恥…。思わず顔を覆ってしまう。

「あ、いたいた…珠美」

「へっ…あ、文和殿」

気がつけば早い足取りで此方に彼が来た。やれやれ、と肩を竦ませて「片付け終らせてきたら、あんたが部屋に居なくてね」と言われてしまった。

「ご、ごめんなさい…散歩してました」

「いや、いいんだ。ほら、行くぞ」

「行くって…何処へ?」

差し出された手を反射的に取ったものの、急な命令に首を傾げる。

「こんな暖かい天気のいい日に行く場所なんて、決まってるだろうに」

「あ…」


私が目的を悟ったのを見ると、にやっと笑う文和殿。催促されるように腕を引かれ、二人で野山へと、遠乗りに出かけた。


約束の、花を見に。


見頃を迎えた満開の桃の花が、私たちを祝福してくれてるような錯覚。うれし、はずかし。私も大概、この人への気持ちが甘いな…。

最初に握ってくれた温もりと同じ熱さを手のひらで感じて、それだけで、悶々と考えていた恥じらいも気にならなくなる。


この春に、貴方の隣で、こうしていられることが、嬉しい。

言葉に出していないのに、文和殿は此方を向いて、この上なくご満悦そうに笑った。




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