せめてもの仕返し


「約束してくれるなら、話す」

「じゃあ…とりあえず、怒りません…」


「よし」


少しホッとしたのか表情が柔らかくなった。
飄々とした態度を崩さないこの人がしかめっ面になるほど緊張していたなんて…
知るのが怖くなってきた。


「あー…弱った時が一番の攻め時だと思ったんだ」

「…は?」

「戦でも俺はそうしてきたし」

「はぁ…それと、何の関係が…」



「「…………」」


「…珠美殿の仕事を意図的に増やして、ごめん」

「はああああ?!」

「ほらほら、怒らないって言っただろ?まぁ、最後まで聞きなさい」


「じょ、冗談じゃない!!というか、意味が分かりません!なぜ、なぜ私の仕事を…。私そのせいで倒れたんですけど…!?」


握られている手に力がこもる。
当然怒る珠美に賈クは眉をひそめ、あろうことか不平をもらした。


「あ、あんただって、俺の告白聞いて倒れることないだろ…」


どうやらあれは夢ではなかったらしい。
賈クの頬が少し赤い気がする。
つられて何だか恥ずかしくなって賈クから視線を逸らす。

自分の頬も熱いのが分かる。
怒りよりも、不意の喜びが勝ってしまう。


「で、でも賈ク様も皆も忙しそうだったし仕方なかったのではないですか…?」

「あははあ…俺が忙しかったのは本当だ。けど、他の連中には休暇を与えてたんだよね、これが…」

「なっ…!?」


ぎょっと賈クを見返す。
二の句が継げぬ…だから自分一人で執務をやっていたのか…。
執務室に閉じこもりで城に同僚がいるかどうかなんて、気にしていなかった。
そういえばなんか、同僚たちが「可哀想」みたいな目でこっちを見ていたような…。

腹から沸々と湧き上がる怒りが蘇ってきたが、“とりあえず怒らない約束”をしたので黙っている。
バツの悪そうな、苦い顔をしている賈クが言葉を続けた。


「弱ってる珠美殿に『あとは俺が全部守ってやるから俺のもんになれ』って…そういう作戦だったんだが…」

「…ど、どうなんですか。その作戦は…」

「いやぁ……こういう所で俺の策は弱いのかって勉強になったよね」

「勝手に勉強しないでください!だ、大体、はじめから素直に言っていただけたら…」

「言っていただけたら?」

「……すぐにお返事できましたのに」


珠美の様子で返事を悟ったのか、先ほどの苦い顔はどこへやら。
「あははあ!」と笑ったかと思うと珠美を抱き上げた。


「ちょ、まだお返事してないです!」

「いーや、もうわかるね!何たって俺のために曹魏に来てくれたあんただ」


一度も志望動機なんて話したことないのに何故知っているのだか、もう聞く気にもなれない。
自信があるなら、本当に最初から素直に言ってくれればよかったのに。

それも捻くれ者の意地なのか。
諦めて肩の力を抜けばいっそう強く抱きしめてくる腕を、少し悔しいが愛しく思う。
せめてもの仕返しに、これでもかという程強く賈クを抱き返してやった。









***********

「俺の部下になるやつの事はなんでも知っておかなくちゃだろ?」

「ぐぬぬ…」(最初から知られていた)

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