結局、城下町の平和な昼下がりをおびやかしたのは、蜀を守るべき将軍たちなのだから世話はない。
 城に帰るなり諸葛亮の部屋に出頭した三人のうち、二人は素直にうなだれ、今回の騒ぎの元凶たる残りの一人は反省の色なくふんぞり返っていた。むしろ俺の手柄だろう、と鼻高々なのだからどうにもこうにも手が付けられない。
 一方の諸葛亮はわかりやすく三人を叱責することはなかったものの、顔の半分を覆う羽扇のせいでその本心はいかがなものなのかわからなかった。

「丸くって、丞相! 騒ぎを起こしただけじゃないですか!」
「そうだよぉー! 若の執務もそのまま残ってるしさぁ」
「岱! お前は友人よりも執務のほうが大事だと言うのか!?」
「そうじゃないけど、っていうか、結局なまえ殿は趙雲殿を選んだんでしょ」

 空気が読めないというのは、もしかすると馬家の血なのかもしれない。
 名指しされたなまえはびくりと肩をはねさせ、気まずそうに座りなおす。それに気づいた趙雲は、また馬超が余計なことを言い出す前にと、口火を切った。
 
「そ、そのことですが、諸葛亮殿にお話が」
「ほう、なんでしょう」
「私も先ほど聞いて驚いたところなのですが、その……何やら私たちの関係について色々と噂が流れていたようで……今日の件も含め、お騒がせして大変申し訳ありませんでした」

 趙雲は努めて平静を装ったが、本当は恥ずかしくてたまらなかった。なにしろ城に戻るなり、門番や部下やら、行く先々で出会った人々に「おめでとうございます! ようやく実ったんですね!」と祝われたからだ。街中での趙雲の公開告白は、その大胆さと彼自身の有名さもあって瞬く間に広まった。そのため本人たちが城に着くころには、誰が伝令したのか皆の知るところとなっていたのだった。

「まぁ、特に大きな問題が起きたわけではありませんからね。城下で騒ぎを起こしたことについては不問にいたしましょう」
「はい……申し訳ございませんでした」
「ただ、そうですね。人の口に戸は立てられないと言いますから、次は別の噂でもちきりになることは覚悟してくださいね。それにどうも、趙雲殿が話をしなければならない相手は私以外にもいらっしゃるようですよ」
「は?」

 諸葛亮はそう言うと、羽扇を机の上に置いた。露わになった彼の口元は、きゅうっと笑いをこらえるように引き結ばれている。
 話をしなければならない相手? と趙雲が首を捻ったその刹那、ばしん、と音を立てて後ろの障子が勢いよく開かれた。

「ちょ、張飛殿!?」
「趙雲! てめぇ、よくもうちの可愛いなまえを!」
「おいおい、張飛殿。まだ趙雲は接吻のひとつもしていないんだから気が早いんじゃないか? まぁそのうち、あんなことやこんなこともするだろうがな」
「っ! あ、あんなことやそんなことだとぉ!」
「バ、バカ馬超!!」

 いつかはちゃんと話をせねばと思っていたが、まさかこんなに早くその時期が来るなんて。
 手合わせをしろ! 今から俺がなまえに相応しいかどうか試してやる! と喚く張飛に、趙雲は明日の筋肉痛を覚悟する。

「わかりました。こちらも全力で挑ませていただきます!」
「よし、よく言った趙雲! それでこそ蜀を担う将軍だ!」
「いいぞ趙雲! 張飛殿との手合わせの後は俺とだ! なまえの兄代わりたるこの馬孟起を超えていけ!」
「誰が兄よ! 馬超はただ手合わせしたいだけでしょうに!」

 なまえはおろおろしたり、赤くなったりと忙しない様子だったが、やがて自分の力では事態を収拾できないと諦めたらしかった。最後にひときわ大きなため息をついたかと思うと、めいっぱい背伸びして趙雲に耳打ちする。

「私、趙雲殿の欠点、わかっちゃった」
「え?」
「真面目過ぎて、恋愛に不器用なとこ。でも、そういうとこすっごく好き」


 絶対、勝ってよね。
 そう言ってぽんと背を叩かれ、趙雲はだらしなく緩みそうになる顔を懸命に引き締める。目の前に立ちはだかるのは強敵ばかりだが、彼女の為に負けるわけにはいかない。

 不器用なら不器用なりに、泥臭い愛を証明してみせようではないか。


END

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