「おや、趙雲ではないか!お前も遠乗りに出かけるところか?」
「……あぁ、馬超、戻ってきていたのか」

 少し落ち込むことがあったので、癒されたくて厩に来た。特別動物が好きなわけではなかったが、相棒にも等しい愛馬でも見れば少しは心が落ち着くだろうと思ったのだ。
 しかし、不意にかけられた大声に安らぐことも出来ず、そのうえ声をかけてきたのが落ち込む原因を作った馬超とあっては、いくら趙雲でも爽やかに返事を返すことができなかった。

「馬岱殿が怒っていたぞ」
「そのようだな、だから午後の調練まで俺もまたここへ避難してきたわけだが」

 あれだけ皆に言われたにも関わらず、結局遠乗りに出掛けたらしい馬超には少しの反省の色もない。まあそれはいつものことだからよいのだが、その遠乗りになまえまでも同伴したと聞いて、趙雲は落ち込んでいたのだった。

「……なまえ殿も一緒だったそうだな」
「あぁ。だが『馬超のせいで張飛殿とお酒を飲む機会を逃した!』とかなんとか言われてしまった。せっかく誘ってやったのにけしからんやつだ」

 全く似ていない物真似を披露した馬超は、その時のことを思い出したのか不満そうに鼻を鳴らす。「……馬超、」やっぱり確かめずにはいられない。もしも二人がそういう仲なら、悲しいがこの想いは胸にしまおう。趙雲は愛馬のたてがみを撫で、深呼吸した。

「お前はなまえ殿と、その……恋仲なのか?」
「……は?」

 瞬間、まるで違う世界の言葉を聞いたみたいに、馬超の目が大きく見開かれる。
 そして次の瞬間、彼はあははは!と腹を抱えて笑いだした。

「俺がなまえとデキてるかだと?っくく、そんなことを言ってみろ、趙雲お前、なまえにぼこぼこにされるぞ!」
「で、ではなぜなまえ殿ばかり遠乗りに誘うんだ」
「それはあれだ、好きだからだ」
「えっ」
「絶影が、なまえの馬を」

 こちらは大真面目に質問したのに、馬超はよほどこのことがツボに入ったらしい。説明しながらもまだしばらく笑っていて、正直いつにもまして喧しい。

 だが、趙雲は思い切り安堵していた。落ち込んでいた心が急に軽くなるのを感じた。

「俺も前から絶影の嫁を探してやりたいと思ってたんだが、ちょうどなまえの馬を気に入ったらしくてな。遠乗りはあいつらの逢引だ、なまえも承知の上で来ている」
「そうだったのか」
「しかしなんだ、まさか趙雲にそんなことを言われるとはな……まさかお前、もしかして、」
「ち、違う!私はただ、相談に乗ってもらおうと思っただけだ!」
「相談?何のだ?」
 
 とっさについてしまった嘘に、趙雲自身が慌てている。しかし馬超には知られたくなかった。この男は善意の塊だが、真相を知れば絶対に余計なお節介をするからである。かといって嘘をつきなれているわけでもない趙雲は、ぼやかすだけで精一杯だった。

「その、もし馬超となまえ殿が恋仲なら、助言をしてもらおうと思ったのだ」
「助言?趙雲、お前好きな女でも出来たのか?」
「まあそんなところだ」

 途端に馬超の目が輝いたが、要は相手さえバレなければいい。

「誰だ?女官か」
「言わないさ」
「おい趙雲、それはないだろう、隠さず言えよ。だが、助言を求めるという事はお前の片思いなのだな?あれだけ女を振ってきたくせに、面白いじゃないか」
「面白がるから余計に言いたくないんだ」

 趙雲は内心冷や汗をかきながら、厩を逃げるように後にする。「趙雲、水臭いぞ!」後ろから馬超が追いかけてくる気配がしたが、絶対に言うつもりは無い。
 自分となまえのことであれだけ爆笑した馬超なのだ、もしもここで趙雲の想いを知ったら今度こそ息ができなくなるくらいに笑うに違いなかった。

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