いつもより明らかに赤い顔で、平然とデスクワークをこなす恭弥を、ソファの上からジト目で見やる。

「なー、休んだら?」

「なんで」

書類から離れ俺に向けられた目は潤んでいる。いつもは気配さえ悟らせない恭弥が、今は熱い吐息を溢していた。
俺は恭弥よりは冷たい、しかし深い息を吐き出した。

「熱あんじゃねーの」

立ち上がり恭弥に近付く。掌を額にそっと押し当てると、やはり常よりも熱い。もしかしたら俺の移したかもしれないと言うと、恭弥は首を横に振った。
大丈夫だよ、と軽く俺の手を払い立ち上がる恭弥。しかし、一歩進んだ所で体が傾いた。

慌てて受け止めると、ずっしりと重い感触。
気絶しているのか。

俺は再び息を吐くと、携帯を取り出した。


「もしもし、草壁さん?あのさ――」






**






意識が浮上し、暖かい何かに包まれているのを感じた。
ゆっくり瞼を上げる。
視界いっぱいに白が飛び込んできた。

病院か。雲雀は重い頭で理解する。
上半身をゆっくりと持ち上げると、腰の方に違和感を感じた。

「ん、」

小さく身動ぎする銀糸に、成る程と納得する。恐らく彼が草壁に頼んだのだろう。
銀時はベッドの脇に置いてあるパイプ椅子に座り、雲雀の体に凭れるように眠っていた。

「んが」

彼も病み上がりなのだ。安静にベッドで寝るべきではないだろうか。そう考えてから、雲雀はベッドの上に座り直す。
銀時の両脇に手を差し込むと、いつもより入らない力で、それでも軽々とその体を引き上げた。
ベッドの上に銀時を横たえると、自らも横になる。動かしたからか、僅かに眉を潜める銀時に、雲雀は誰にも見せたことのない穏やかな表情を作った。

出会った頃もこうして、一面の白に包まれた銀色を眺めていた。群れることを好まず、無駄な関わりは避ける人種だった己が飽きることもなく。
銀時は雲雀にとって唯一の友人だ。その他の人間は部下であったり、愚かな生き物に過ぎない。雲雀の中では銀時だけが世界でただ一人、同等を許した人間だった。

銀時の傍が世界で一番落ち着くのだ。雲雀は普段張り詰めている意識を緩め、ぎゅっと銀時の体を抱き込んで再び眠りについた。

ああ、安眠できそうだ。

















――騒がしい。

聞こえる騒音に目を覚ました。銀時はまだ寝息を立てている。
起き上がり周囲を確認すれば、ガラの悪そうな男が騒いでいるらしい。
――折角の二人の時間を台無しにされた。

銀時の頭を一撫でしてから、雲雀は枕元に(都合良く)置いてあったトンファーを手に取った。

「ねぇ、キミ達……」

「あ゙?」

「なんだテメェ」

友好的とはいえない視線が突き刺さるのも意に介さず雲雀は男達を睨み付けた。

「僕は煩いと眠れないんだよね。静かにしてくれる?」

「ぎゃははは!赤ん坊かよ? 誰がテメーの言う事――」


一閃。

雲雀のトンファーが男を捉えた。
一瞬の静寂の後、悲鳴を上げ逃げる男が、やはりトンファーの餌食となった。

「そうだな……銀時も寝てて暇だし、ゲームをしようか」

鶴改め雲雀の一声。
入院直後より顔色が悪くなった男達に、この病室における支配者はゆっくりと告げた。





「「僕が寝ている間に物音を立てたら咬み殺す」」





綱吉はそのえげつない内容にショックを受ける。
あまりに一方的すぎるし、負け――雲雀が起きれば、床に転がっている人と同じ目に合うのは分かりきっていた。

雲雀と同じベッドで暢気にいびきをかいている双子の片割れが今は憎らしい。

「あ、あの!僕もうすっかり良くなったんで退院します!!」

駄目元で言った言葉。しかし背後から突然現れた人物に逃げ道を塞がれた。

「ダメだよ医師の許可がなくちゃ」

「!?」

「やぁ、院長」

「いんちょー!?」

綱吉の叫びが木霊する。
そんな患者には目もくれず、院長は雲雀へ深々と腰を折った。

「こうして安心して病院を運営できるのも雲雀君のお陰、生け贄でもなんでもなんなりとお申しつけ下さい」

病院ぐるみー!?
どんだけ大きいんだ雲雀恭弥コミュニティ。綱吉は目眩がするものの何とか持ちこたえた。

そそくさと立ち去ろうとする院長を雲雀が呼び止めた。

「はい!!なんでしょう!?」

「もうそろそろ銀時が目を覚ますだろうから、甘い物――そうだな、苺のパフェを持ってきてよ」

「はい!ただいま!」

なんで病院にパフェがあるんだ、というツッコミを何とか呑み込んだ綱吉は、雲雀が銀時を抱えて眠りにつく姿に嘆息した。






**







兄弟の慌てる声、限界まで小さくされた扉の閉まる音。それを確かめてから俺はゆっくりと目を開いた。
目の前には患者専用の服。着ている奴は俺を見下ろした。

「――起きた?」

「ツナが来て直ぐに起きたわ!でもなんか言い出し辛かったし」

おめーだって寝てなかったし。意識ある状態で抱きしめられることの何と気恥ずかしいことか。
言うと無言で微笑まれる。

多分、雲雀恭弥の笑顔は、真冬の蛍並にレアなんだろう。しかし俺は見る機会が人よりは多い(それでも少ないが)訳で、怯む事はない。ただ、今の笑顔は熱のせいかいつもより柔らかく優しく、間近で見た俺は体の芯まで暖かくなる。
いつもこういう顔してればいいのに。


「……あんまツナを虐めないでくれよ、四十代の肌よりデリケートなお年頃なんだから」

「銀時を見る限りそんな繊細さは感じられないけどね」

「うわー今ので銀さん傷ついたー、HPが半分削られた上に心が状態異常ー」

「全く……もうすぐキミの機嫌を直すものが来るから」

苺パフェ!!
起きていて勿論会話もバッチリ聞いていた俺は飛び起きてベッドの上に正座する。何故か恭弥が引っ付いたままだが気にしない。熱は人を心細くするものだしな!

丁度良いタイミングでノックの音。
どこかの店のもののように綺麗に整ったパフェを、怯えきった顔の院長自ら持ってきたらしい。

恭弥の権力乱用に少し辟易する部分もあるが、こういう時は都合良く吹っ飛ぶらしい俺の頭は既に苺パフェでいっぱいだった。



説得(?)が足りなかった所為か、更にボロボロになったツナを見舞う事になるのはこの直後である。






+++

更新の前に、散々待たせまくった友人に献上したら「稲村これはアカン、あざとい」と言われたのでやむなくこっちに移動。どうせならとホモ色をほんのり濃くしましたぐへへ。
現実の男共は普通に抱き締めて背面座位の真似事したり耳食んだり口にキスしたりするのに……それを男同士で日常的にしているものと思っていた私は可笑しかったのか。いや私でなく私の周りの男がおかしい。

パフェ食ってる時の雲銀の格好は勿論背面座位です。入院中座る時は常に背面座位です。坂田は雲雀の膝の上に座ったり股の間に入ったり。ifなので許したって下さい。


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