さて現在は最終日の夜。
合宿では二人部屋で、俺は跡部と同室だった。
部屋といっても、リビングの奥に扉を隔て寝室がある構造。
そのリビングの方で、跡部は書類整理をしている。
だから俺は寝室のベッドで終わるのを待っていた。
暇だなと思いながらぼーっと天井を眺めていると、いきなりベランダに通じる窓から叩く音がした。
一気に血の気が引く。
やべ、どうしよ、跡部呼ぼ……体動かねぇぇぇ!!
金縛り!?金縛りなのか!?
やべーよどうする、ってか、窓――――開けっ放しじゃね?
気が付くと同時に、窓は開いた。
「ぎむごぉっ!?」
叫ぼうとすれば口が塞がれ、鳥肌が立つ。
思わず涙目になって相手を見上げた。
「……誘っとるん?」
白石かよぉぉぉ……。
一気に脱力。今のは聞いてない。
「跡部にバレないように、頼むで?」
それに頷き、手を退かしてもらう。
「何の用だよ……驚かせやがって」
「何って……夜這い?」
「は?頭打った?」
本気で心配すると、冗談やと笑われた。
「折角合同合宿なんに同室なんは見知った奴やろ?せやから、最後位他校の誰かと寝たい思てなぁ」
「へー。まぁいいけどよ……跡部もいるぜ?」
「そこはスルースキル発動や」
白石は得意そうに笑いながら、ちょうど向かい合うようにベッドに横になった。
「……なぁ」
「ん?」
「跡部からかいたいのは良く分かったけどよ、いい加減俺巻き込むの止めてくんね?」
白石が目を見開く。
笑顔以外を見るのは初めてだった。
「気持ち悪ぃ笑み見せられんのも、厭そうに付き纏われんのも、跡部苛つかせる為なんだろうがこっちは不快なんだよ。喧嘩なら他でやれ」
「…………気付かれてへんと思っとったわ」
「俺を誰だと思ってんだ」
白夜叉なんて知らないだろうけど。
「せやな……跡部が大事にしとる奴がいる聞いて、そいつの事になら跡部が感情的になるかもって興味持ってなぁ」
「しかも興味本意かよ」
「悪いって」
白石は態勢を変え、仰向けになる。それに習い俺も仰向けになった。
「跡部と懇意なんかと思っとったから、小春みたいに扱えば喜ぶやろ、ちょろいって思っとったわ」
「殴っていいですか」
「ちょい待ちぃ!……全然そんな事無かったんやって分かったわ。普通に男やし。寧ろ男らしいし。
一緒にバカな事してくれるし。
――今までやってたんは、自分も銀時も不快になるような事やったな」
「……今日からは止めろよな?」
「勿論。いい加減自分でも気色悪ぃ思っとったからな」
ふと白石の顔を見ると、白石は目を瞑っていた。
どうやら本当にここで寝る気らしい。
「……なぁ、銀時」
「あ?」
「もっかい、友達になってくれん?」
「改めて言う事かよ。当たり前だろ」
「そか…ありがとな」
やがて白石の寝息が聞こえてきて、それに釣られるように俺も目を閉じた。
夢の中で、跡部と白石がまた言い争いをしていたが、夢でも俺は寝ていたようだ。
良くは覚えていない。