夕食時に、大阪の四天宝寺についての話があった。そこからは両校で顧問とマネージャーと部長だけ紹介し合う。それから歓迎パーティーという流れになり、今夜の夕食は立食とのことだ。
皆好き勝手に騒いでいて、もう立食というより合宿の夜状態……あ、合宿の夜じゃん。
「声に出しとるで」
「うお、びっくりした」
いきなり至近距離で話しかけられて、振り返ると四天宝寺のレギュラーがいた。
「初めましてやな〜。俺は忍足謙也、謙也って呼びぃ。よろしゅう」
にこにこと人懐っこい笑みを浮かべる男。忍足……。
「なぁ……忍足って、」
「謙也!話の途中やろ!」
鼻息荒くこっちに来た忍足が謙也に掴みかかる。
「お前ら、兄弟?」
そう質問すれば俺がいた事に漸く気付いた忍足が目を丸くした。
「謙也、お前銀時に手ぇ出したんやないやろな!!」
「はぁ?挨拶してただけや!どこをどうしたらそんな考えになるん!?」
「目ぇつけた奴片っ端から手玉に取っとる聞いたで!」
「そんなんするか!」
「おい忍足、答えろや」
ドスの効いた声で脅すと、情けない悲鳴を上げ、二人は抱き合いぷるぷる震え始めた。
さっきまでの喧嘩はなんだったんだ。
「ぎ、銀時、俺とこいつは従兄弟や」
なるほど、ヘタレな部分がそっくりや。
「こいつ、誰にでも手ぇ出すから、銀時も気ぃつけぇ」
「嘘教えんなや!お前こそ大阪まで絶えず色事の噂が届いとったで!」
「はぁ!?そんなんガセ情報や!」
またもや二人でヒートアップし始めた。めんどくさい従兄弟だ。
誰か止めてくんねーかなと他力本願で眺めていれば、なんとも都合良く救世主が現れた。
「何してんすか、謙也さん。その人困ってますけど」
「財前んんん!」
謙也が声の主にがばりと抱き着いた。
顔を見てみれば、なんとまあピアスだらけ。やっぱ不良なのか、四天宝寺。
「俺が悪いんやないっ侑士の奴が俺の悪口言うから!」
「何でも人のせいにすんなや!」
「はいはい。謙也さんうざいんで離れてくれません?……えーと、銀時、さん。うちの先輩がすんません」
こいつ良い奴だな、うん。
「いや、忍足も悪かったから大丈夫」
「どっちの忍足や銀時!」
「あっちやろ?あっちが悪かったんやろ!?」
「侑士の方に決まってんだろ」
「侑士!!それもっかい言ってくれん!?つかいっそ名前呼びしてくれん!?」
「誰がするかにんそく!ロリコン!」
「な……何故それを!!」
「認めんのかよ!」
「なーなー、ろりこんってなんや?」
いつの間にか俺と忍足の口論になっていた所に、素朴な疑問。
忍足と二人、口を止めて声の方へ向くと、なんとまあ純粋な瞳をキラキラ輝かせた少年がいた。
「ちゅーか、兄ちゃんえらい真っ白やなぁ!もしかして北極から来たんか?」
「金ちゃん、いきなり失礼やで」
ピアスが少年をたしなめる。少年は毒手かましてもらうで、と言われて慌てて口にチャックする動作をした。
しかし謙也の一言で一瞬にして取り外される。
「こいつは銀時っちゅーんや。さっき言ってたやろ」
「銀!?銀と同じや!おーい銀!」
ぶんぶんと振られる腕にピアスがジト目で謙也を見る。
「どうしましたか、金太郎はん」
少年に呼ばれやってきた大柄の男は、俺を見て一瞬驚き合掌した。
「銀時はん、いきなり世話になることになってもーて堪忍やわ」
「あ、どうも」
「皆も!ここに銀と同じ名前の奴がおるで〜!!」
少年の呼びかけで四天宝寺の面々がわらわらと集まった。
「あらっ、マネージャーの可愛い子じゃない」
くねくねとした坊主の男が俺に近付く。
衝撃に固まっている間に、男は俺の腕にその腕を絡めて――。
「小春ゥゥゥ!!浮気かァァァァ!!」
今度は緑のバンダナの男が飛び出してきた。
「……一氏ィ!!黙らんかィィィ!!」
「ヒィ!?」
いきなりオカマが豹変し、情けない事に俺は引き吊った声を出した。
オカマは緑バンダナの胸ぐらを掴むと、前後に激しく揺らしだす。
うわぁぁぁぁ…。
誰か、誰か止めてやってくれ。
やっぱりアレか、西郷といいオカマはどこの世界でも最強なのか。だから誰も近寄れないのか。
「千歳!千歳も来ぃ!」
「今手が(皿で)離せんばい!」
「やから謙也の方が!」
「なんやと!」
…………そんな諦めが出てきた時。
「小春、そこらへんにしてやりぃ。銀時も驚いとるで」
白石蔵ノ助は現れた。