「ドリンクできたぞー!勝手に飲みに来いよー!」
ドリンクの入った大量のカゴをコートの脇にどすんと置くと、コートにいるテニス馬鹿共に叫ぶ。
それを聞き付けた野郎共は、我先にと俺に走り寄ってきた。
ボトルを求めハイエナのようにカゴを漁るこいつらを見て、苦笑を漏らした。
そもそもの始まりは跡部から、合宿に着いて来いと言われたことだ。
マネージャーがいないから、家事全般得意で体力腕力がある俺に手伝って欲しいと。
理由は分からないが、しばらく前俺は江戸のかぶき町から、異世界であるここに落ちてしまった。
しかも十代半ばにまで若返っていた俺は、どうすることもできず途方に暮れていた。
しかし跡部が俺を拾ってくれたお陰で何とか衣食住を確保できたのだ。
こんな怪しい俺を助けてくれた跡部には、言わないが感謝している。だから、マネージャーになる事も直ぐに了承した。
学校には通っていないが、部員とも面識はあるから問題も無いだろう。だから俺に頼んだのだろうし。
「銀時」
「あ、跡部。何か用か?」
噂をすればなんとやら。
跡部に用件を訊くと、急遽地元の学校を参加させるとの事。
「そうか。じゃ、ドリンクとタオルの数増やすな」
「……あぁ」
跡部は渋い顔になる。
まだ何か言いたそうに口をパクパクさせている。
「跡部?なんだよ?」
俺が促せば、跡部は躊躇ってから口を開いた。
「お前はマネだから仕方ねぇんだろうが……これから来る学校の奴らには気を付けろ」
「あ?」
「特に、白石には必要以上に近付くな」
え、何。
不良でも来るの?もしかして。
「俺強いし、年下相手に挑発とかしねーから平気だよ」
そう言うと、跡部はため息を吐いた。
「そういう意味じゃねぇよ」
じゃあどういう意味だ。
「だからな……白石ってのは、こう、口癖がエクスタシーだったり常に腕に包帯巻いてたり、とにかく――変態なんだよ」
「えくすた……?なんだそれ。包帯って、そいつ厨二?」
「いや、中三だが」
「えっ」
「えっ」
「……」
「誰が変態やって?」
突然聞こえた声に体を竦める。
と、同時に俺の肩に回る腕。
跡部の顔が渋さを増した。
え、誰。
だが殺気も危険な気配も無いしいいか、と気楽に考えていると、急に跡部に腕を掴まれる。
気が付くと今度は跡部の腕の中だった。
「……おやおや、キングともあろう男が随分と嫉妬深いこって」
愉しそうに笑う男の顔を漸く見ることができた。
跡部もそうだが、こいつも所謂イケメンに相当するんだろう。だが、真に残念な事にこのイケメン、腕に包帯をしてらっしゃる。
どうやら重度の厨二病患者のようだ。
「何の用だ、白石」
こいつが白石か。なんて思っていると、白石は余裕そうに笑顔を見せながら言った。
「いや、急に参加する事になってもーて悪いわぁ。別荘の持ち主の跡部にも、マネージャーさんにも謝っとこ思おてな?したら、二人共一緒におるやろ。
こりゃ好都合と」
「全く問題無い。だから早く戻れ。榊先生から説明がある筈だ」
跡部が遮るように言う。
白石は話を止められ、しかしやはり不敵に笑んだ。
「はいはい。――そうや、銀髪君。名前教えてくれへん?」
いきなり話を向けられ戸惑いつつも答える。
「坂田銀時だ」
「そか。俺は白石蔵ノ助。よろしゅうな」
白石は俺と軽く握手してから満足気に去っていった。
嵐のようだった。ぽかんと見送っていて、ふと仕事の最中だと気付いた。
慌ててボトルを回収しにいこうとすると、再び腕を引っ張られる。
そういえばまだ跡部の腕の中だった。
頭だけを捻って上を向くと、仏頂面の跡部の顔が俺を見下ろしていた。怖い。
「いいか、銀時」
「は、はぁ」
「あいつとだけは仲良くなるな」
そう言い、俺の髪を軽く手でくしゃくしゃにしてから腕を放した。