「あれ?獄寺さん、ここに来るなんて珍しいですね」
黒髪の女性が俺達に気付く。
「そこの男の子は……どこかで見たような」
「わぁ、銀時君に似てる」
「はひっ、本当です!」
なんだか見覚えのある二人だ。
俺が首を傾げると、獄寺が助け船を出した。
「三浦ハルと笹川京子だ。面識あるだろ?」
「あぁ、なるほど」
同じように獄寺が女性陣へ説明すると、ばっと俺へ振り向く。見事な満面の笑みだった。
「お久しぶりですっ銀さん」
「本当に!わぁ、懐かしいなぁ」
二人はキャッキャとはしゃぐ。女性に喜ばれて嬉しくない訳がない。
と、ある事に気付いた。
「あれ?さっきの人は……」
「え?あっ、髑髏ちゃんがいない!」
「おかしいですね。あれだけ銀さんに会いたがっていたのに」
髑髏、という女性は俺の姿を見て逃げ出したらしい。しかし、会いたくない訳ではないと。
…恥ずかしかったのか!
「どこいったんだろうね」
「うーん……」
ハルは、右手を顎に添えて考えた後、ポンと両手を叩いた。
「いきなりだったから恥ずかしかったのかも!」
俺が今考えついた事だった。
「私、髑髏ちゃんを連れてきます!」
「あ、私も行くよ!」
「お前ら!待て!」
獄寺の制止も聞かず、二人は出ていった。
静寂。
やがて、獄寺は疲れきった表情で口を開いた。
「銀時。さっき、ここがお前にとって一番安全だって言ったよな」
「あぁ。それが?」
「なんでだか分かるか」
「……いや」
本当の悪い予感。
「ここの奴らは、女子供に絶対手出ししない。ここにも、食事時以外滅多に入らないからいい隠れ簑だ。
でもあの二人、クロームを捜してあちこち歩くだろ」
俺も、そこでいい加減悟った。
「もし、誰かに俺達の事話したら……」
その言葉を掻き消すように、ドアの向こうで衝撃音が響いた。
音が収まり、暫くの静寂の後、ゆっくりと扉が開く。
成る程、女の使う場所で乱闘は禁止なのか。しかし、静けさが逆に怖い。
「銀時……」
「ひっ」
姿の見えない相手に、情けない声を出す。
見かねた獄寺が俺の頭を撫でる。無意識に、獄寺に擦り寄る形になった。
「……ねぇ、そこは僕の定位置なんだけど」
山本だったらマシだったのに。
現れたのは暴れん坊将軍雲雀恭弥だった。
「うっせー!銀時怯えさせててよく言えるな!!」
おお、獄寺、十年前と変わらず物怖じしない。
「さっきは山本に好きにさせてたがなぁ」
おお……。ん?
「いいか……俺は、十代目以外にこの座を譲る気はねぇ!」
ぎゅ。
は。
一瞬頭が真っ白になる。いや。だって、獄寺が。
獄寺ってこんな奴だっけ。こんな俺に心開いてたっけ。
考えている内に、体が更に強く抱きしめられる。
「咬み、殺す」
恭弥が静かに言った。
今度は咬みまで言ってくれたけどわざわざ強調させなくてもいいんじゃ恭弥さんキッチンでは乱闘禁止だろつか獄寺なにしてんのホラ目の前におっそろしい肉食獣だよ銀さん食べられちゃうぅぅ、な、んて……。
気が付けば獄寺は俺に手を回しつつちゃっかりダイナマイト(着火済)を持っていた。
わー器用ー。
「じゃねェェェ!!獄寺ぁ!俺を火だるまにするつもりかァァァァァ!」
「十年経った俺の実力嘗めんな!お前には傷一つ付けねぇ!」
「違ぇわ!この状態で戦ったら確実に俺に危害くんだろ!」
「僕が銀時に手を上げると思う?」
「初対面で殴り掛かってきたのはどこのどいつだ!信憑性の欠片も無いわ!」
ツッコミが欲しい。ツナ……あ、ダメだ。あいつも十年後クオリティだもんな。
もうやだ。
俺は来るであろう衝撃に目をぎゅっと瞑った。