何故かツナの部屋に用意されていたケーキを食べながら時間を待つ。
「山本ー」
「ん?」
俺を足の間に座らせ、包み込むようにして胡座をかく山本に話しかける。
なんやかんやで。なんやかんやでこうなった。
「まだ五分経たないのか?」
山本と獄寺が顔を見合わせる。
「もう二十分経ってるぞ」
「多分、十年バズーカが壊れてるんだろ」
「そうだな」
口々に言う二人。
なんだか、確信めいた口調だ。
「そうなのか?」
「え、あぁ。前ランボが来た時もそうだった」
前例があるなら、と、ほんの少し安心。
……あ、そうだ。
「なぁ、ランボの時って空から――」
「銀時が来てるって本当?」
突然ドアが勢い良く開く。ドアの奥にいた人物は、開け方に合わず冷静な口調だ。
黒髪に冷めた瞳。見覚えがあった。
「恭弥か?」
「そうだよ。……銀時、山本から離れなよ」
こっち、と手招きする恭弥に条件反射で立とうとするが、腰に重さを感じ、再びすとんと山本の膝の上に収まった。
山本が俺の腰に手を回している。
「銀時、ここから動くの禁止なー」
にこり、山本が笑う。
「……咬み殺す」
「おい!十代目の部屋で暴れんじゃねぇぞ!」
恭弥がトンファーを構えたところで、獄寺もダイナマイトを取り出した。
獄寺、今自分で言った事をもう一度言ってみろ。
「大体、十代目の部屋に何のようだ!」
「不本意ながら僕も守護者の一人だから、入る事自体問題はないでしょ。銀時を連れて直ぐ出てくつもりだしね」
「ツナに銀時を頼むって言われてっから、銀時は渡せねぇよ?」
「正論だがテメーはいい加減銀時を離せ!」
「やだ」
山本が俺の肩に顔を埋める。吐息がかかって、くすぐったい。
と、突然山本が俺を抱えて飛び上がった。
咄嗟の事に、「うひゃっ」と情けない声を出す。
「殺す、」
「咬み、まで入れて!怖いから!」
どうやら恭弥がトンファーで山本に殴りかかったらしい。俺いるのに。
部屋の隅で山本に下ろされ、ここで待ってろと頭を撫でられる。十年後の山本といると、ペットになった気分だ。
山本は恭弥と対峙すると、どこからともなく真剣を取り出した。
「銀時は渡してもらうよ」
「それはできねぇ、なっ!」
金属同士がぶつかる音が響く。いつの間にか山本と恭弥の戦闘になっていた。
山本ってこんなに強くなるんだなーと遠い目。
獄寺は止めるのを諦めたのか、俺の手を引く。
「十代目は、優先順位はお前が一番だとおっしゃっていたからな。逃げるぞ」
「え、でも、」
「暫くしたら銀時が消えた事に気付くだろ」
二人にばれないように、ゆっくりと脇を通り、部屋を出る。
扉を閉めると、中の騒ぎが嘘のように静かになった。
「…………」
「…………」
「……行くぞ」
「あ…おう」
獄寺と二人で歩き出す。手は繋いだまま。
なんだかとてつもなく気まずい。
「獄寺ぁ」
「なっ、なんだよ!?」
「お前がなんなんだ。俺達ってどこに向かってんの」
言いながら手を振り払うと獄寺が「あぁっ」ともらしその後慌てて首を振った。
「俺が思う、お前にとって一番安全な場所だ」
一番安全、と聞いて、むっさい男が大量生息(警備的な意味で)してるような場所を思い浮かべた。
「ほら、ここだ」
獄寺が立ち止まる。着いた先からは良い香り。
「……台所?」
「あぁ。入れ」
背中を軽く押されながら、ゆっくりと入口をくぐる。
無駄に広い、店の厨房みたいな料理スペースに三人分の人影。
ドアをくぐると天使がいました。