アイテム探しは冒険の基本

全員が意識のない状態だが、それでも起きることを懸念して、できるだけ早く部屋を探索してここを出ることにする。跡部は一刻も早く進みたがっていたが、出口に辿り着いて鍵がありません、なんてことになったら笑えない。ゲームでも一度行った部屋の探索は面倒なものだ。それに、できるだけ誘拐の手懸かりは多い方がいい。

部屋の至るところにある資料類は跡部に任せて、俺は男共の手持ちを物色することにした。敵を倒したらアイテムが出てくる。これは鉄則だ。
ちなみに廊下のカスだかゲスだかいう名前の奴は何も持っていなかった。やはり下っ端なのだろう、可哀想に。

鉄パイプは一旦床に置き、一番最初に倒した奴から順に漁っていく。ポケットには煙草とライターに携帯、鍵らしきものは見当たらない。二番目の男も同様。次、巨漢のポケットには銀紙に包まれた飴のようなものが入っていた。一瞬手を伸ばしかけたが、こういう奴らの持っている「飴」が安全なものでない可能性を考え、止めておく。
次、半狂乱になっていた男だが、随分臆病だったのだろうか。ポケットの中には弾薬が数個入っており、上着の内側にはナイフが隠されている。そこまでしてるのに随分とお粗末な動きだったと振り返る。
少し悩んで、ナイフ数本を抜き取った。

さて、最後の男だが。ポケットを漁って直ぐに出てきやがったぜ!どこの鍵かは知らないが出口の鍵だと信じておく。
こいつは五人の中でも一番後ろにいたし、こいつが「殺しても問題ない」と断じた瞬間に他四人が銃口を俺に向けたのだ。どこがただの雇われだよ、この中じゃトップだろが。
念のため更に漁ると、スケジュール帳が出てきたためこれも拝借しておく。

「跡部ー、大体終わったぜ」

「ああ、分かった。俺ももう終わるから、ここで持っていくものを選ぼう」


選ぶ、ということは、跡部は相当多くの手懸かりを見つけたのか。流石御曹司だ。
了解、と短く言って跡部の元に向かうと、いつの間にかき集めたのか机の上に、それはもう大量の紙の山が置いてあった。

「……え、これ、全部読んだの」

「当然だ」

「何者だお前」

「跡部景吾、跡部財閥の跡取りだ」

どや顔する跡部をぽかんと眺めていると、お前の真似だと頭を叩かれた。

「いいから、早くお前の成果を見せろ」

「ほれ、まずどこのかわからない鍵」

鍵と聞いて跡部の表情が若干和らぐ。こういうアイテムはあると心強いよな。

「と、スケジュール帳。使えるかは分からんが盗ってきた」

「嵩張らないし、その二つは持って行くか」

そう言われ、俺はとりあえず自分の成果を机の端に置く。次は跡部の成果を確認する番だが、この山を選別できる気がしないというか、そもそも全部見切れない。

「まず、これは建物に関する書類だ。見取図や人員の配置図が書いてある。万が一のためにも持っていった方がいいと思う。こっちは誘拐の計画書だな――随分杜撰なようだが。物騒な単語が多いくらいで大したことは書かれてないから、別にいらないだろう」

書類の山を前に遠い目をしていた俺だったが、心配は杞憂に終わったようだ。跡部が一つずつ分かりやすく且つ簡潔に説明していき、最後に持っていくべきか自分の意見を付ける。俺はそれに、肯定するか否定するか、或いは質問をして納得するだけで済んだ。こいつは本当に子供か。神楽に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

跡部の思わぬ才能により短時間で選定は終わり、厳選した数枚の書類だけを持っていくことになった。戦闘要員が持つのは拙いという跡部の提案により、書類と俺の見つけたアイテムを持ち歩く係は跡部が担うことになった。
一番上にある見取図を眺めて、跡部が言う。

「子供だからと甘く見たのか、一階にはここの連中とあと数人、出口に配置されてる程度しかいないらしいな」

この建物は三階建てのようだ。三階にリーダーら重要人物を置き、二階は連絡係の下っ端、一階で倒した男達は意外にも、中堅程度の立ち位置だったらしい。そもそも、そんなに大規模なグループではなかったようだ。
建物は随分と縦長の長方形で、一階の出口は短い辺の方に一つだけだ。ここは出口と正反対の場所に当たる。出口のない最奥に人質を置けば監視も一ヶ所のみで済むのだから合理的だ。ただこいつらの力が俺に及ばなかっただけで。
ともかく、ようやくこの場所の全貌を知った俺達は真っ直ぐ出口を目指すことになった。先程の戦闘から、出口にいる敵程度なら難なく倒せるだろうと判断したのだ。出口の手前に上へ繋がる階段があり、二階へ上がること自体は難しくないようだったため、本当は三階まで殲滅させたいところだが、流石にこの身体で跡部を連れての攻略は難しいだろう。
何にせよ、アイテム保管役の跡部に戦闘役の俺で役割も固まったし、希望が見えてきた。このままいけば直ぐにここから脱出できるだろう。

床に置いた鉄パイプを拾ってから、跡部と目配せをして、部屋の扉を開ける。見取図の通り、端に物置がある以外は特に使い道のない狭い空間となっていた。勿論、ここは先程の男たちの管轄であるため誰もいない。数歩歩けば出口に通じる扉に辿り着く。

扉を開けると、目と鼻の先に出口と思わしき扉はあった。階段付近を物音を立てないよう慎重に通過すれば、出口の前に着く。試しに開けようとするが、案の定鍵が掛かっているようだった。
様子を見て跡部が先程の鍵を取り出したため、俺は扉の前を跡部に明け渡す。鍵を鍵穴に差し込むと、あっけなく鍵は開いた。

「開いたぞ!」

嬉しそうに言う跡部によくやったと声を掛け、再び俺が扉の前に立つ。この短時間で、扉開け係は俺という暗黙の了解が出来上がっていた。
扉を開けようとドアノブに手を掛けると、跡部がぽそりと呟いた。

「ありがとな」

無言で跡部へ視線をやると、跡部は俯いたまま続ける。

「俺一人だったら、ただ助けを待つだけだった。人質の取引に応じれば会社にとって大損害だったし、下手すれば金だけ騙し取られて俺は助からなかったかもしれねえ。奴等の悪事の証拠品まで手に入れられたのもお前のお陰だ……ここを出たら、改めて礼をさせてくれ」

「……あー、うん、どういたしまして」

俺の周りの人間には到底望めない直球の感謝に目が泳ぐ。温い空気に耐えられず、「いくぞ」と小さく声を掛けて、急いで扉を開いた。

数秒後、俺は跡部の立てたフラグを恨むことになる。

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