目の前には依然銀時の顔がある。彼は怪訝そうに、月詠の口を塞ぎながら言った。
「団子、嫌いじゃねぇよな?」
彼の手は月詠の口元にあった。
月詠は、たった今口の中へ入れられた物をゆっくりと噛んだ。
甘い。
態々串から外したらしく、銀時の掌には団子の粘りが付いていた。
寒いのに、寒い筈なのに顔だけが、熱くなった。
「お前さ、また一人で悩んでるだろ」
「……」
「お前の大切な日輪が心配してたぞ?『銀さん、月詠の様子見てきてくれる?』ってな。」
前払いなんだぜ?と銀時は笑った。
自分の為の依頼。
あぁ、そういえばあの時も彼女はこの銀髪に依頼をしていた。
自分が落ち込んでいたから。
彼女にだけは心配させたくないと、自分は決めていたのに。
「わ――わっちは、」
自分は。
何に悩んでいるのだろう。
吐き出し掛けた感情の欠片を言葉に出来ず、口を閉じた。
銀時は暫く待ってから何も言わない月詠を見て、唸った。
「少し、歩くか」
風が冷たい。
まだ見回りをしている百華の者もいるというのに、頭領である自分が暢気に散歩とは。仕事人間だと称される月詠らしくその事に罪悪感を抱いた。
遊女達も百華も、銀時と月詠の姿を見ると笑顔で声を掛けてくる。
律義に返事を返す銀時をじっと見つめていると、いきなり銀時が月詠へ振り向いた。
「寒そうだよな、その恰好」
月詠を見ながら銀時が言う。
確かに、いつもと同じ動き易い服装ではある。寒いのも確かだった。
「うーん……………
……うん、マフラー貸してやる」
「は!?い、いや、これ位の寒さなど慣れていんす、自分で使いんせん!」
「だって耳まで真っ赤だし」
有無を言わせず銀時は月詠の首にマフラーを巻いた。強引で、心なしか楽しそうだ。
「これで二人共あったけぇだろ」
「お、まっ」
半分は銀時に巻いたままだったせいで、距離が近くなる。
知らず速まった鼓動に気付いていませんように、と月詠は願った。
「……うん、まぁ、お前が話すのを躊躇うんなら俺からはもう何も言わねぇよ」
唐突に話し出した銀時に、月詠は一瞬驚くも無言で聴く体制に入った。
「日輪は怖がってる。お前が一人頑張りすぎて、壊れちまうんじゃねぇかって。俺達――万事屋には感謝してるってさ。
だから今日は俺を呼んだんだろ、あん時みてぇに助けてやりたいから」
「日輪が…………」
「そうだ。まぁ結局なんも解決しなかったがな。
……せめて、日輪には話してやれよ」
銀時は月詠の頭に手を置いた。
ポンポンと、子供をあやす様な動きをする腕は、月詠の目の前から伸びていた。
「っ、」
「じゃあな。銀さんは一杯飲みにでも行きますから」
「ぎん、」
「日輪に宜しくな。告げ口すんなよ」
いつの間にか銀時の首にマフラーは無く、月詠へ丁寧に巻かれていた。
それを理解した瞬間、身体中が熱くなった。
ひらひらと手を振る銀時に何も言えずに月詠は一目散に日輪の所へ駆け出した。