息が白く濁り、消えてゆく様を気にしつつ夜の色街を歩いていた。無論体を売る訳では無い。自分の仕事は彼女達を――この街を守る事だ。
この手で、遠い昔無二の存在だった彼の人を送り出してから大分此処は落ち着いた、と月詠は思った。
少し前までの此処はあらゆる汚れが蔓延し、賑わう筈の大通りさえ殺伐としていた。なにもかも諦めて、少しでも命を延ばす為に男に媚び、抱かれる。何時様済みと見なされるか判らぬ状況下の中で、恐怖と闘いながら生きてきた。皆、一様にそうだった。
今の吉原を見る事無くこの世を去った遊女達に此を感じさせたかった。こんなにも暖かい光に見守られる様に、自由に街を出歩く女。母と戯れる少年。
普通、の街を彼女達にも、と幾度悔やんだだろう。
女達の騒ぐ声が届くまで月詠の思考は続いた。
女に囲まれ、此方へ向かい歩いている男は絡め捕られていない方の手を挙げた。一々投げ掛けられる言葉に返してやりながらの行進が剰りに遅いものだった為仕方無く月詠は自分から銀髪の持ち主へと近付いた。
「よ、月詠」
「…久しぶりじゃな、銀時」
自分でも素っ気ないと思われる挨拶に、彼はそれでも笑顔を返す。
何の用事なのだろうと首を捻る。それに気付いたのか否か銀時は日輪に会いに来たと言った。
「依頼があるらしくてよ。人使いは荒いが金払いは良いからな」
敬愛する日輪への軽口を咎めるべきなのに、月詠の口から出たのは安堵の溜め息だった。