「――いたぞ」
昼間の、家族で賑わうファミレス。土方と沖田は銀時達のテーブルから死角になる位置でじっとなりを潜めていた。
隊服でファミレスにいる姿は端から見れば中々怪しいが、本人達は全く気にしていなかった。
銀時の目の前には胸焼けしそうな位でかいパフェがある。それを美味しそうに食べる銀時はとても――目の保養となるのだが。
それを、向かいの席で眺めている人物が悪かった。
「山崎の野郎……!!」
「頬がゆるゆるじゃねェか山崎、気持ち悪ぃ」
銀時を締まりの無い顔でガン見する山崎は、自分の上司が見ているなど露知らず、幸せオーラを振り撒いていた。
時折銀時が顔を上げ、目が合うと笑い合うその姿は正に恋人同士。
「土方さん……」
「あぁ……そうだな」
普段仲の悪い二人がそれだけで通じ合えるのも無理は無いだろう。
現在銀時と山崎は往来を歩いている。
恋人同士の様に手を繋いだりこそしていないもののフワフワとした空気があり、土方と沖田を精神的に襲った。
「畜生、山崎の奴……」
どちらからともなく吐き捨てる。しかし、二人には手を出さない理由があった。
確かに今出て行き山崎をボコボコにすれば、銀時とのデートを中断できるかもしれない。しかし、きっと銀時は激怒するだろう。銀時のいない時ーー屯所で殺るのも同様だ。
二人共嫌われるような真似は絶対にしたくない為、誰がやったか分からない程度に妨害する事にしたのだ。勿論山崎にだけ危害が加わるようにである。
上手くいけば銀時に山崎の駄目さ加減が伝わって別れたいと思う可能性もある。
その為にギリギリと唇を噛みながら銀時達を尾行していると、漸くある建物で動きが止まった。看板には映画館と書かれている。
土方は沖田にアイコンタクトを取ると、二人で中に入った。
「大人二枚。旦那、俺が払いますんで」
「え、いいの?」
「勿論ですよ」
遠くから聞き慣れた声がする。
「チッ――大人二枚。土方払えよ」
「ざっけんな!テメーの分はテメーで払えや!」
「上司の癖に。死ね」
二人は言い合いながらも銀時達の後ろをキープする事に成功した。
因みに全て小声である。
「っ、!?」
「山崎君?どうしたよ?」
「いえ……何か寒気が」
体を縮める山崎に、寒いかここ?と思いながら銀時はスクリーンへ視線を移した。
間もなく映画は始まった。
落ちこぼれの男が天才少年と出会い少しずつ道を開いていく物語。
「デートにこのチョイスってどうなんだ?」
土方が呟くと、沖田が呆れた様に言った。
「別に普通でしょう?ったく、ろくにデートしてねぇ野郎が知ったかぶってんじゃねぇよ」
沖田が土方の分のジュースを渡すと、土方は無言で飲み干した。
「一気に飲んでんじゃねーよ気管に詰まらせろ――あ、ほら、山崎の野郎、旦那にあんなに近付いて」
その言葉に急いで二人を見ると、確かに寄り添う姿があった。
ちくしょー……暗いからって何て事を!
土方はしかし、作戦の為にその感情を押し込めると、沖田に合図した。
沖田はそれを受けると懐から小さい物体を取り出した。
瓶に入って蠢いているそれ。
「サド丸十四号でさぁ。所謂ムカデですねィ」
「うわ……えげつな」
「本当はあんたに使おうと思ったんですぜ」
死ね、と叫ぼうとしたが慌てて飲み込む。
「まぁ、ここにいる奴は使いませんがね」
沖田が呟いた瞬間。
ガシャアアアァァァン―…
何かが割れる音、続いて悲鳴。
スクリーンを破り現れたのは、体長八メートルはありそうな巨大ムカデだった。