かぶき町恋愛雑録 | ナノ

青年と

なんと、ただ一度すれ違っただけ(と言い張る)の青年は銀さんの知り合いだったらしい。
世間とは狭いものだ。

戸惑いつつ中へ促すと彼も戸惑いつつ中へ入っていった。

勿論進めば銀さんの所に着く訳で、青年が姿を現すと今までの喧騒がぴたりと止んだ。
銀さんと桂と新八君は特に驚いている。何かあったんだろうか。

しんとしたまま嫌な空気が流れてきたと思うと、この中で一番怖いものが無さそうな神楽ちゃんが食後の酢昆布を噛みながら沈黙を破った。

「誰アルか?今は食事中アル。依頼はお断りネ」

神楽ちゃんの言葉を受け、新八君はそういえば、と思い出した様に言った。

「神楽ちゃん、そういえばいなかったもんね。
その人は銀さんの知り合いで――」

「真木晴臣です。よろしくね」

にっこり笑って自己紹介してから、真木…さん?は体ごと銀さんに向けた。
銀さんは既にいつもの雰囲気に戻っているが桂は何となく嫌そうに見えるし、どうしたんだろう。

その疑問は本人が解決してくれた。

「晴臣、お前、攘夷を止めたかと思えばよりによって幕府の下で働くとは」

「…桂」

あぁ、一気に険悪になってしまった。
真木さんは透視能力を開花させようとでもしているかのように目をどころか瞳孔まで開いているし、桂は冷凍庫並の冷気を放っている。さっきの変態はどこへ行ったんだ。

しかし流石神楽ちゃん、この雰囲気の中口をモゴモゴ動かしながら普段通りに言った。

「幕府?それって税金泥棒と同じアルか?ニコチンとかサドとかストーカーと同類アルか?」

税金泥棒とは何だろうか。
ニコチンとかサドとかストーカーって……既視感があるのは何故だろう。

しかし真木さんは眉間に皺を寄せ首を横に振った。

「あんな集団と一緒にしないでくれないか。
俺は今、結野家で陰陽師として働いている」

「マジアルカ!?シスコンと知り合いアルカ!?ケツだけに!」

「神楽ちゃん、上手くないし下品だから止めようか」

興奮する神楽ちゃんをやんわりと鎮めてから新八君は首を傾げた。

「でも、僕等が結野に行った時はいませんでしたよね?なのにどうして…」

「その時は別の仕事をしていたから」

「ああ、やっぱりシスコンで分かっちゃうんだ」

結野家と言えば、江戸の街を式神で護っている陰陽師……だっけ。
そんな凄い所で働いている人がここにいるのも凄いが、それ以前から結野家の知り合いがいるのが凄い。
銀さんも知っているんだろうか。

というかシスコンって…。

一体どんな人間なんだろうかと考え込んでいると桂がイライラと吐き捨てた。

「例え江戸を守護する役目があろうと幕府との関わりは否定できんだろう」

真木さんは桂を睨むとそれきり口を閉ざした。
二人を見ながら銀さんは不思議そうに言った。

「ヅラ、お前俺が結野に行った事知った時は別にそんなん言わなかったじゃねーか」

「貴様が依頼をこなすことに一々文句は言ってられんからな。大体、ただ行ったからといって銀時が幕府縁の機関に肩入れするとは思わん。」

真選組の件があるから完全に否定はできんが、と渋面で吐き捨てる桂の雰囲気は、今までで一番禍々しい。


「ヅラ、俺が全部飲んじまうぞぉーっ」

会話に入れなかったのが気に入らなかったのか、既に酔っ払っていたうちの馬鹿兄貴が桂に声を掛ける。いつの間に渾名で呼ぶ仲になったんだ。

「ヅラじゃない、桂だ。すまぬが翔太、今少々立て込んでいる。いくらでも飲んで待っていろ。」

「あぁーーっそ!べつにいいけど?べつに、俺がオカマと知らずに男を好きになったかわいそーな男だなんてべつにヅラにはべつにかんけーねぇもんな!」

兄貴は悪酔いしたらしく桂に嫌な絡み方をしている。構図だけ見れば若者に因縁つけるジジイだ。

ああほら、桂が桜を蝕む害虫を見る目になってるよ。いい加減に止めてくれ、銀さんに私までそうだなんて思われたら立ち直れそうにない。

「俺はさぁ、道ですっげーカワイー娘見つけたから声掛けてさー、それだけなんよ?なのになんで男なの!おとこ!オス!MAN!!」

「………………仕方無かろう!確かに銀時は女装せずともそこらの女共に劣らず、否、銀時の方が数段愛らしいわ!!男だから何だ!!貴様の想いは所詮その程度のものだったのか!?」

桂の怒声にぽかんと口を開く兄貴。論点がずれている気がするがいいのか。

兄貴はぶつぶつと何かを呟くといきなりぱぁっと顔を輝かせた。

「……そうか!男っつっても結局同じ人間だもんな!そうだよ、他の奴等皆フッた程に惚れたんだ、男だからどうした!」

開き直ったぁぁぁ!

「パー子――いや、銀時を惚れさせてみせる!」

兄貴が人としての道を踏み外した瞬間を見た気がする、というかばっちり見届けてしまった。
何で異性の兄弟とライバルにならないといけないんだこの桂め!

桂を睨み付けると意外に焦っている様子だった。そうだよな、ついさっき知り合った人間をホモにしてしまったんだから。

「な――銀時は渡さん!」

そっちか。
さっきからの言動も一々そっち方向に取れる発言をしてはいたが、本当にそっちの人だったとは。
それなら銀さんじゃなくて別の人をロックオン括弧はあと括弧閉じしてくれればいいのに。ほら、目の前に丁度いい男がいるよ。今さっき新境地を開拓してしまった可哀想なブラザー。

こうなったらもう万事屋の面々にしか頼れないだろう、そう思いすがるように目線をやった。
しかし完璧に無視を決め込んだらしい、新八君は湯飲みに注いだお茶を啜っている。元凶である銀さんと神楽ちゃんは不毛な会話をする男達を半目で見ている。二人共そっくりな目だ。こういうの、確か死んだ魚の目って言うんだっけ。

「私ドラマ見るから静かにするヨロシ」

「あ、俺も」

神楽ちゃんがリモコンをテレビに向ける。

丁度テーマ曲が流れていてそのメロディが桂と兄貴の口論を巧い具合に覆った。

「何、これ?」

「晴臣知らねーの?」

神楽ちゃんと銀さん、それにちゃっかりバカ地帯から非難していた真木さんが、ソファの上でくっつきながら画面に魅入っている姿は何とも……微笑ましい。

三人のお陰で場の雰囲気は一気に和やかになった。
銀さんの端正な横顔を眺めていると、兄貴はポツリと言った。

「そうだなぁ…………美人だもんなぁ」

完全に毒されたようで。

私のブラックリストには、銀さんに飛び付いて吹き飛ばされている桂の名前がペンキででかでかど書き殴られたのだった。









「で?どうだった?」

経過を聞こうと身を乗り出すお母さんに愚痴を溢す。

「うん、まあ……恋のライバルが二人できました」

「へぇ?泥沼じゃない」

本当だよ。ライバル皆男だからね。
これからは男にも気をつけないといけないなんて意味が解らない、というかあり得ないだろう。

銀さん、人脈広いのはいいけど変なのには気を付けて下さい。

心の中で呟くと兄貴が階段を降りてきたらしい。しかしいつものように私達の会話に首を突っ込む事無く真剣な表情で向かいのソファへ座った。
年上のお姉さま方がころっと落ちそうな憂いを帯びた表情で溜め息。

「銀時…………………」

呟きを聞いて、成る程、とお母さんが笑った。

「手強そうなライバルねー、顔は良いから」

「あの銀さんが男を選ぶ訳無い!!………と思う」

桂とか桂とか桂とか見た後だと……自信が無いが。
というか、息子の性癖についてはノータッチですか。

私が眉を寄せていると、お母さんは私に言った。

「もしかしてもう一人も?」

「……あはー」


銀さんは桂の事どう思ってるんだろう。
桂は(見えないけど)指名手配される程の危険人物だし、変態だけど、銀さんはなんだかんだそれに付き合ってるし。(顔はいいし)嫌ってはいないんだろうな。
そもそも私はどう思われているんだろう。


考えだすと不安が溢れて溢れて仕方無いから、私は思考を止めた。

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