かぶき町恋愛雑録 | ナノ

変人と

兄貴はショックで固まっているし、銀さんは鬱状態だし、新八君は黒いし。

取り敢えずはと今まともに説明できそうな新八君に訊くと、どうやら家賃滞納のツケでオカマバーで無理矢理働かされたらしい。

気の毒な事に、兄貴が出会ったパー子さんとは銀さんらしい。銀さんが「まさかお前が真琴の……」と呟いていた事で確定した。女の子を全員ふってまで好きになった人が男だったなんてトラウマものだろう。
というか体格で気付かないものか。銀さんは相当身長が高いのだから、暗がりの中座っていたりしない限りは普通違和感を覚えると思うが。
……暗がりの中座っていたらしい。兄貴、運が無かったんだな。

兄貴の悲壮感漂う表情は、悪いけど笑える。

「断じて俺の趣味じゃ無いからな」

先程から否定しかしないけど、銀さん、女装似合い過ぎですよ。

「いやっ俺より――ヅラ!あいつの方が断っ然女っぽいね!普段から髪バサバサさせてっからだよぜってー」

ヅラ、とは可哀想な渾名だな。
それにしても銀さんは本人がいない事をいい事にそんなに悪口を言ってもいいのだろうか。

しかし、本人がいなかった訳では無いらしい。

「ヅラじゃない、桂だ」

渾名が気に入らないのだろうか、自己紹介しながら和室から現れたのは黒い滑らかな髪を長く伸ばした精悍な顔立ちの男だった。

というか――


「かっ桂小太郎!!」

「ああ本当だー」

よく見たら指名手配犯の桂小太郎じゃないか!
兄貴の反応が淡白なのはこの際置いておく。

何で攘夷浪士が銀さんと渾名で呼び合う間柄なんだ。

始め銀さんに視線を向けていた桂が此方に気付いたようでじっと見つめられる。

「……その女が真琴殿か」

その女って、随分酷い言い方だな。

桂は品定めする様に私を眺めた後、まあいいとか眼中にも入らんだろうとか失礼な事を呟いた。

「時に銀時、そこにいる男は誰だ?――まさかアフターとやらか!?そんな不埒な!お母さんは許しませんよ!」

「誰がお母さんだ!!
……翔太だよ、真琴が連れてきた」

兄弟だってさ。
言ってから銀さんは再び頭を抱え始めた。

「知り合いに見られちまうとか、なんだこれ、なんの羞恥プレイだよ。いや一人は寧ろ女装姿しか知らないような奴だが…あぁ、お婿にいけなくなったらごめんね結野アナ。代わりに俺が奴等オカマを呪っておくからねっ」

あ、俺も今オカマだったぁぁ!!

ぶつぶつ独り言を呟き始めた銀さんに桂が近づいた。

「大丈夫だぞ銀時。貴様はどっちにしろ俺の嫁になる運命にあぐほぁっ!!!!」

「テメーは話をややこしくすんじゃねーよ!」

桂の顎に銀さんのアッパーが綺麗に決まった。桂は鼻血を出しながら遠くまで飛ばされ、しかしそれでも不気味に笑いながら這い戻ってきた。髪の毛も相まってまるで貞子だ。不気味だ。とんでもなく不気味だがまぬけでもある。これでいいのかテロリスト。

「ふっ、照れるな銀時。お前は昔俺の求婚を受け入れたではないか。あの時の気持ちを思い出せ」

「んな記憶あるか!」

桂は冗談を繰り返しながら鼻にティッシュを詰める。
銀さんはげんなりしている、これがいつもの事なのだろうか。

空気に耐えられず私は夕飯の支度に向かった。
今日は里芋とさやえんどうの煮物にしよう。









神楽ちゃんも帰って来た所で、昨日よりも格段に多くつくった筈の夕食は、何故か当たり前に食卓を囲む桂と兄貴の加勢もあり結局昨日とさして変わらないペースで減り続けていた。
一応私の分も入れていたのだけど、また食べられずに終わりそうだ。

すっかり男に戻った銀さんは猛烈な勢いで食べながら桂に悪態をついている。しかし桂は気にする事無く私へ感想を言ってきた。
中々美味いが味付けが濃い、俺の好みは云々。

「姑かテメーは!」

私が言い出す前に銀さんが代弁してくれた。

「姑じゃない、桂だ」

登場時と似通ったセリフだが、気に入ってでもいるのだろうか。

銀さんが再び文句を言おうと顔を上げると桂は銀さんの目の前に白い箱を突き出した。

あれ、それは……

「うちのケーキじゃん」

銀さんを横目にちらちら盗み見ていた兄貴は驚く。

「む、そうなのか?」

「ああ。良く来るのか?お前を見た事は無いんだが」

「銀時が甘味好きだからな、土産に買う事がある」

ケーキの話題でいつの間にか兄貴と桂が意気投合していた。
銀さんは瞬く間に箱を開けて中身を頬張る。
それを横取りしながら神楽ちゃんは、

「銀ちゃん銀ちゃん、今度一輪車買ってヨ。皆持ってるんだもん、私も欲しいネ」

「はぁ?なぁに言ってんだ神楽。あんな不安定で乗りづれーモンどうすんだ、お前じゃ半日で飽きるだろ」

「そんな事無いネ!中古でいいから買えヨ!」

銀さんと神楽ちゃんはまるで親子のような会話をしている。

こうなると必然的に選択肢は新八君しかいない訳だが、彼は昨日の二の舞にならないように凄まじい形相でご飯を掻き込んでいた。
話し掛け辛いので私は唯一空いている位置に座る。

お腹すいたなー……。

溜め息を吐くと銀さんが気付いてくれて、煮物を私の前に置いた。

有難いんですが、どうやって食べろと。箸は。


好意を無下にもできないので、自分で箸を取りに行く。そうしてやっと万事屋で夕食にありつく事ができたのだ。









ただの煮物だけだというのに、皆はすっかり宴会気分に浸っていた。
兄貴はどこからか酒を出して桂と飲んでいるし(人様の家なのに!)、神楽ちゃんと銀さんは張り合いながら猛スピードで箸を動かしている。銀さんはもう限界そうだが。
結局新八君はおかわりできなかったようでしゃもじ片手にテーブルに突っ伏している。銀さん、新八君にも愛の手を。

頃合いを見て片付けを始めるとインターホンが鳴った。

誰も出れなさそうだ。
他人の家だが出てしまおう、そう思い玄関を開ける。そこには兄貴位の歳の男がいた。

「……あ、」

あの時の、と呟き慌てて口をつぐむ男を私は朧気にだが覚えている。

私が声を掛けるべきか悩んでいるうちに、彼は戸惑いつつ口を開き、言った。


「坂田銀時、いますか?」

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