かぶき町恋愛雑録 | ナノ

兄貴と

さて、無事ご飯づくり初日も終わり、何とか万事屋さんと仲良くなれた私はうきうきと帰宅した。
今の私に恐れるものは何も無い!!

そんな心境がだだ漏れだったらしくお母さんがにやつきながら台所から出てきた。

「何でそんな嬉しそうなのよ。恋?誰?」

「え!?いいいいや!違うから全然!!」

慌てて否定するも、全く信じてないなこの人。
ああ、もう。
別にいいけどさ。

お母さんは若い。見た目も二十代で通りそうだし、性格や考え方だって若者のそれだ。
だからか、お母さんというよりお姉ちゃん感覚でいつも話をしている。

だから、肉親にはし難いという恋愛話だって普通にするのだ。

「うん……あのさ、こないだ長谷川さんのとこにお使い行ったじゃん」

「あ、攘夷志士に人質にとられた時?
もしかして助けてくれた人が好きなの?」

何故わかった!!
あまりの察しの早さに飛び上がる。

「そういえば昨日用事があるとかで夕方どっかへ出掛けてたもんねぇ」

更ににやにやするお母さんに隠すのは無駄だと悟った私は頷き肯定した。
どうせなら相談相手がいた方がいい。

「確かかぶき町の万事屋さん、だったっけ?」

「うん。すっごいかっこいいんだよ」

「真琴面食いだからね〜」

そんな事は無いと思う。たまたま好きになる人が皆素晴らしく顔が整っているだけだ。

そう言うとお母さんは遂にけたけた声を上げ笑い始めた。失礼なものだ、人の好みを笑うとは。

「何笑ってんの?」

お母さんの笑い声が上まで届いていたらしい、階段を降りて居間に腰を落ち着けたのは私の兄貴だ。

「真琴の好きな人の話!」

「へー。あれだろ、例の万事屋」

何で皆分かるんだ。
幸福の余り家族団欒中口を滑らせたのがいけなかったのか?
というかお母さん、あまり口外しないで欲しい。
お陰でにやにやにやにや擬音が聞こえてきそうな笑顔が増えてしまった。

「今度はどんな色男だよ?腕っぷしが強いんならさぞムキムキなんだろうな」

「銀さんはムキムキじゃありませんー、程よい体格の持ち主ですぅー」

子供っぽい所もある無邪気な人ですーっ。
なんだか自分が変態になったようだったのでそこで切ったけど、まだまだ良い所は箇条書きにして並べられる位ある。

兄貴はへー、と悪人面になる。

「兄貴こそ彼女はどうしたのさ?」

「あ、あいつ?ふったけど。今はフリー」

「なんで!?」

兄貴は何故か彼女が絶えた事が無い。
ふるとしてもふられるとしてもまた勝手に湧き出る泉のように新しく女の人を連れてくるのだ。憎らしい限りである。
そんな奴が、フリー。遂に全員食いつくしたのか?

「そうじゃねーから」

兄貴は手を振った。

「実は俺もかぶき町で運命の出会いをしちまってさぁ。一本に絞ろうかと」

銀髪の、すげー美人な女なんだよな。

私の耳は銀髪という単語にぴくりと反応した。
まさかまさかの共通点、兄妹揃って銀髪さんに恋慕の情を抱くとは。

これが後々ややこしい事態に発展するとは露知らず、兄妹二人の恋人が銀髪になったら珍しいね、なんて笑い合った。











という訳で昼過ぎ、家族の支持まで貰い勇んで万事屋へと出発、したのだが。

「……何で着いてくるよ」

「将来の義弟にご挨拶?」


例え数多の女性を落としたであろう仕草で首を傾げられても妹である私には効く訳無い。気持ち悪いと罵ってやろうか。

だが長年共同生活をしてきた仲だ、これ以上言っても無駄なのは重々承知の為諦めて歩き出す。
家族ぐるみの付き合いは大事だよね。兄貴と歩いてるの見られて彼氏と勘違いされても困るし。

「お前の顔じゃ兄妹止まりだよ」

し…失礼な。私は童顔などと言われた事は無いぞ。

「そういう問題なのか」

「うっさい黙って」

誰かと話していると時が早く感じるのは本当なようで、あっという間に万事屋に着いた。心拍数はここで一度急上昇する。
インターホンを押そうとすると兄貴に掠め取られた。

「ちょ、新ぱ、来ちゃったじゃん!」

「……仕方無いですね、僕が出ますよ」


丸聞こえの声がしたと思うと、新八君が扉から顔を出した。
兄貴を見てこの人は誰ですかと礼儀正しく訊いてきたので経緯と共に説明する。どうせ新八君は片想いの事知ってるんだし。

「ちょっとここで待ってて下さい」

言ってから、新八君は私達を廊下に残し扉の奥へ入っていった。
隣を見ると早く銀さんを見たくてうずうずしている兄貴と目が合った。
直ぐ逸らした。

向こうからはやはり、

「いやだぁぁ!!この姿を真琴のみならず兄貴にまで見られたらぜってー軽蔑される!残り六日間気まずくなるぅ!!」

「そんな事言ったって来ちゃったモンはしょうがないでしょ!ほら、いいから早く!」

暫くして勢い良く開く扉から顔を覗かせたのは新八君で、満面の笑みを浮かべている。

「どうぞお入り下さい」

正直恐かった。

逆らえない雰囲気の中恐る恐る部屋へ。そして最初に飛び込んできたのが――

「パー子!」

兄貴が叫んだ。

「何でここに――もしかして銀時って人と兄弟とか?」

ツインテールを垂らした銀髪の美人は、ソファに座り項垂れている。急いで脱ごうとしたのか着物の帯が乱れていた。
勝手な解釈をしている兄貴には悪いが、ここからは男の人の声しか聞こえてこなかった。しかも銀さんのセリフから考えて――

「…………銀さん?」

銀さんは俯いたまま頷いた。

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