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一日中ずっと、気配を感じていた。
常に視線を感じる。俺とツナは基本的に一緒に行動しているが、ツナと離れた時はその視線が薄れるため、俺でなくツナに対して熱い視線を向けているんだろう。教室移動の際にこっそりツナの様子を伺うと、ツナも視線に気づいているのか苦い顔で当たりを探っていた。
「ツナ?大丈夫か」
「あ、うん……」
危険がないのは分かってるんだけど、とため息を吐く姿に同情する。俺に直接関わりはないものの、やはり気になるものは気になる。というか。
「あんま野放しにしとくと恭弥に捕まるぞ、あいつ」
「だよねええ……!早くなんとかしないと……」
あいつ、先程からの視線の正体。それは、昨日突然ツナが家に連れ帰ってきた少年、フゥ太である。
俺がフゥ太と会ったのは、何やらツナ達が一悶着終わらせて疲れ果てた後だ。いつも通り恭弥の元で時間を潰してから好きな時間に適当に帰ってきた俺は、運良くその面倒事に巻き込まれずに済んだらしい。
事情を聞けば特殊な能力持ちのためにマフィアに追われる少年らしい、流石リボーンの持ってくる厄介事である。その少年フゥ太を助けたことで彼に気に入られたツナはこうして、学校でまでストーキングされることになったのだが。
如何せんここは普通の学校ではない。ただでさえ迷子(に見える)子供が見つかれば大騒ぎになるだろうし、おまけにこの学校には恭弥がいる。学校の風紀が乱されれば、子供だろうと容赦はしない――事実、俺が初めて恭弥と出会った時も、問答無用で幼かった俺に刃を向けてきた。あの頃の俺とさほど歳の変わらないフゥ太が助かるという保証はできない。
ということで、授業も終わり時間に余裕がある昼休みに、フゥ太を取っ捕まえることになった。
能力こそ特殊だが、身体能力に何の突出した点も持たない子供であるフゥ太を捕まえるのは簡単で、人のいない所を目指す俺達に着いてきたところを引っ捕らえた。抵抗する素振りは見せたものの、敵わないと分かっているのだろう、直ぐにしょぼんと項垂れた。……あざとい。
「だって……ツナ兄と一緒にいたかったんだもん」
うるうると瞳を潤ませて訴えるフゥ太。だからあざとい。
「それに、銀兄のことだって全然知らないし……ランキングしたかったんだもん!」
あざとい。なんてあざといんだ、言っていることは欲まみれなのに、微塵も卑しさを感じさせない。これがマフィアの渇望する星の王子さまか。
しかし、だからといって野放しにできるわけではない。きちんと言い含めねば、とフゥ太へ向き直った。
「あのな、社会にはルールってモンがあるんだよ。学校に部外者は入っちゃいけねーの。不法侵入っつって犯罪になるんだよ、分かるか?」
「うう、知ってるよ。でも、来たかったんだもん」
「ウチで待ってりゃいいだろ?帰ったらちゃんと相手してやるから」
「……ほんと?絶対だよ?」
「おう、絶対絶対。ランキングでも何でもいくらでもしていいぞ。だから今日はもう帰りな。帰り道分かるか?」
「……うん、分かった、帰るよ!銀兄、絶対だからね!ツナ兄も、帰ったらいっぱい遊んでね!」
ばいばい、と手を振りながら出口へ向かうフゥ太を見送って、ため息。これで何とか恭弥のご厄介になる危険は無くなった。俺達も教室に戻ろう、とツナに言おうと振り向くとツナは俺を凝視していて、バッチリと目が会ってしまった。
「銀、やっぱり子供の相手得意だよね」
「そうか?適当に言い含めてるだけだけど」
「ランボさえ黙られられるんだからすごいよ!あー、銀の方が絶対向いてるのに、何でリボーンは俺にお守りをやらせようとするんだろう……」
恭弥に呼ばれて何かと家にいないことも多いしな。その点ツナはいつも家にいるしガキの相手をさせ易いから――とはいっても、リボーンの真意なんて分かる訳がないため、推測に過ぎないが。
午後からは気が散ることもなく、いつものように――真面目にとは言い難いが――授業を受け、何事もなく放課後を迎えた。フゥ太との約束もあるため今日は直帰することにした俺は、ツナと連れ立って家路に着いた。
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