日常編 | ナノ
3

かまくらへ戻りぬくぬく暖まりながら雪景色(プラス大合戦)を眺める。そのまま俺にだけ無害な一日になるかと思いきや、やはりリボーンの悪巧みである、突然の轟音と共に俺の白城は崩れ落ちた。
布団にくるまったままだったため、直接雪を被ることは免れたものの、雪の重みでだいぶ辛い。呆然と事態を確認しようと首を捻ると、時間を掛けず直ぐに原因は見付かった。

巨大な怪獣のような生き物。あれは確か、大きさこそ違うがディーノのカメだったはずだ。あのカメが校庭一面を覆っていた。
ただならぬ様子に急いで雪から脱出すると、カメの近くで慌てふためいているツナの元へ走った。

「おいツナ」

「銀!大丈夫なの!?」

「おう。それより……なんでこうなった」

「雪の水分を吸って巨大化しちゃったんだ…」

あの小さかった生き物がここまで大きくなれるのか。実は大きくなった分スカスカで軽いんじゃないかと思っていたが、水分を吸って巨大化したなら水の分見た目相応に重くなっているに違いない。不用意に近づくのはやめよう。

「そうだ、銀も参加するか?」

動かないカメを二人で眺めていると唐突にリボーンが俺のすぐ傍まできていた。

「そうだったー!!レオン!レオン捕まえないといけないんだった!」

「色々あって生き残ったのはツナだけだ。一人で追うより二人で競争した方がおもしれーだろ」

「んー……まあいっか、もう危なくなさそうだし」

先程まで大勢が追っていたレオンは、今追う者がいないためか俺達の数メートル先に停まっている。
あれを先に捕まえた方が勝ちだ。

「えっ銀と勝負?ってこと!?」

「そういうこと。ホラ、行くぞ、ツナ」

ツナの背中を叩いてから走り出す。雪に足を取られて走り辛いが、楽しい。
時折後ろのツナへと振り返り、早く早くと急かしてはまた速度を上げる。あんな物騒な合戦じゃなくて、こういうのを求めてたんだよ。あー、楽しい!

「銀待っ、はやい、はあっ」

「ほらツナ早ぶっ――」

ツナへ声を掛けながら走っていたら、何かにぶつかり変な声が出た。おかしいな、前に障害物なんてなかったはず――。

「何コレ?あとそのデカいカメ」

聞いたことのありすぎる声。恐る恐る前へ首を戻すと、これまた見覚えのありすぎる顔。

「ヒバリさん!!」

俺達の追い掛けていたレオンはあっさりと雲雀の手の中に収められていた。

「……わあ、きょうやさん、こんにちは」

「やあ、銀時。校庭をこんなにめちゃくちゃにして、何を楽しんでいたのかな」

「違うんですこれは全てリボーンの仕組んだことなんです俺は悪くない」

「ふーん」

後ろにゴゴゴゴという効果音を背負いながら微笑を浮かべている。ああこれは獲物を咬み殺すときの顔だ。後で間違いなく説教コースだろう。恭弥に目を掛けられている分、何かと大目に見られることが多いが、学校の風紀が大きく乱れるならば話は別である。一般生徒のように問答無用の暴力に晒されないだけマシというものだ。

これからの地獄に項垂れる俺を尻目に、恭弥はツナへと矛先を変えた。

「せっかくの雪だ、雪合戦でもしようかとね……といっても群れる標的にぶつけるんだけど 、今はその標的を探してるとこなんだ 」

(なんでこの人捕まんないのー!!?)

ツナの考えが手に取るように分かる。こいつは歩く治外法権だからしょうがない。

ツナの様子など意にも介さず、手の中のレオンへ視線を落とす。不意に何か思い付いたかのように口許を歪めた。

「ここで会ったのも何かの縁だ、今日はキミ達を標的にしようかな」

「え!そ…そんなっ」

「ああ、俺も入ってますね恭弥さん。ごめんなさい恭弥さん」

ツナより俺の方が恭弥に近いというかほぼゼロ距離だからか余計に恐ろしい。引き吊った笑みしか浮かばない。恭弥が目の前でレオンを振りかぶる。あーさようならツナ、お互い明日生きてるといいな。衝撃に備えて瞼を固く閉ざす。

額にバシ、と小さな衝撃。

「と、思ったけど風紀委員の仕事がたまってる。銀時、これに懲りたらもう学校破壊なんてしないこと。いいね?」

目を開けると、俺の方に腕を伸ばす恭弥がいて、そうか、恭弥が俺の額を小突いたのだと気づくのに数秒も掛からなかった。
助かった……?以前似たようなことがあった時は痛恨の一撃を食らわせられた後で小一時間お説教だったのに。
何はともあれ助かったのなら良いのだ、差し出されたレオンを受け取って、校舎の方へ歩き出す恭弥を見送る。心なしか満足そうな背中である。ーーどうやら機嫌が良かったらしい、命拾いした。


恭弥の姿が見えなくなり、さてこの惨状をなんとかせねばと校庭へ意識を写した直後のことである。

「うそ――!!」

甲高い叫び声が背後から聞こえて、急いで振り返ると、ツナがイーピンを抱き上げて慌てふためいている姿が目に飛び込んできた。

「ツナ?どうした?」

「こここここれっ、どうしよう!逃げないとっ!」

ツナは慌てたように俺へイーピンを突き出す。目をハートにし、額に何か文字が書いてある。
何を焦る理由があるのか分からない。

「はあ?」

「イーピンヒバリさんに惚れてるんだった!やばいよ銀、早く逃げ、」

「何で逃げ、」

流石双子、打ち合わせも無しに同時に同じ言葉を紡いだその瞬間のことである。
爆音と共に俺達の視界も聴覚も無へ帰した。

ツナと俺のリタイア――そう、雪合戦の優勝者がリボーンとなった瞬間でもあった。


「いや、何でだよ!」

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