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「へー、ディーノさんが?」
獄寺が不機嫌に、それでも丁寧に情報を話すのはやはりツナパワーだろう。
あの、部下の前以外駄目ツナの如くなディーノが経営者としてもやり手だと。やり手なんて言葉は似合わない気がする。見た目ホストだし。
ただ、強いのは確かだ。あの甘いマスクと実力にものを言わせて取引先を誘惑したり脅したり……はしないか、あの性格だし。やっぱりやる時はやる男なんだろうな。
「どっちにしろ俺は好かねーっスけどね」
改めてディーノへ尊敬を向けるツナに、獄寺は吐き捨てる。
「年上の野郎は全部敵っスから」
そこまで断言され、ツナが返答に困ったように口をつぐんだ。
今日に限ったことではないので俺はスルーするが、本当に清々しい程正面から喧嘩を売る奴だ。
今までの会話を聞いていた山本は、ぽかんとした顔で言った。
「なぁ、さっきマフィアって言ってたけど……」
「!」
「変な会社名だな」
しまった、というツナの顔は山本のボケで一掃された。また別の可哀想な顔になっているが。
俺はツナに囁いた。
「今はそれで通そうか」
「え、う、うん」
あまりの天然っぷりはここまでくると考えさせられるなぁ。
車が来た為にツナを歩道に引っ張りながら思う。
思考が飛んだままその手を離すと。
「うわ!」
「ツナ!?」
「十代目!?」
いきなりロープが飛んできてツナの周りにぐるぐると巻き付く。
咄嗟にロープを目で辿ると、さっきの黒い車。
三人、全く反応できないままツナが車の中に引っ張られ去る所を見送った。
「…………」
「ありゃ、ここら一帯をしめているヤクザ桃巨会の車だな」
「うお、」
「リボーンさん!」
道路を呆然と見ていると、突然リボーンが現れ我に返った。
桃巨会、聞いたことがあるような名前だ。
「ヤクザといえばジャパニーズマフィアだ。大人のマフィアにお前達中学生が敵う訳ねぇ、ここは警察に任せろ」
淡々と告げられる言葉に、それでも獄寺と山本は走り出す。
「任せられません!!」
「警察は頼んだぜ小僧!!」
俺も続いて走り出そうとするが、獄寺に襟首を掴まれて引き摺られる形になった。
「何すんだ獄寺!」
「とろくせえんだよ銀時は!」
「ちゃんと走り出そうとしたじゃねぇか!」
「お前が走るの待ってられるか!つか抵抗ができるから傘閉じろ、」
うるせー、無いのは持久力だけだ!
と叫びつつ傘を閉じ、獄寺の手を無理矢理捻り取ると山本の隣に逃……移動した。
「あーあー獄寺のせいで首絞まったー、戦闘力が6下がったー」
「銀時、痛いのか?」
「何が戦闘力だ!元から0の癖に何言ってやがる!」
山本には大丈夫だと返し、獄寺には叫び返す。
「というか、誰か場所知ってんのか?」
「……」
「おい獄寺!おめー知らねー癖に俺を引っ張りやがったのかよ!ふざけんな!」
結局獄寺が携帯で場所を調べ、少し走ったところでそれらしき建物に到着した。
中に入るなり、いかにもな風体の男達がギロリとこちらに注目した。
しかし、臆す事を知らない獄寺がずい、と前に出て叫ぶ。
「十代目をどこへやった!!」
「はぁ?十代目?」
「どこの組の十代目だよ!」
儚い髪の男とヒョロい男が凄む。
だが全く怖くない。
俺は二人を軽く睨んだ。
「……とりあえずツナを返せや。テメーらンとこにいんのは分かってるんだよ」
「ひ、!?」
ハゲヒョロは何故かビクリと肩を跳ねさせた。
それを見た脇の奴らがざわめき、一斉に飛び掛かってきた――。
ドアが開き、慌てたツナが顔を出す。
俺は反射的にツナの元へ駆けた。
掴んでいたヤクザの黒髪を放り投げて。
「ツナ!!大丈夫か?」
「ぎ…銀こそ…というか、うん、大丈夫そうだね」
軽くツナに抱き着いてから、続いて顔を出したディーノへ顔を向ける。
「ディーノが助けてくれたのか?ありがとな」
「え!?あ、あぁ!!」
ディーノは大袈裟に笑う。
走って来たのだろうか、顔中に珠の汗が伝っている。
申し訳ないと思いつつ山本と獄寺に声を掛けた。
「吐けよコラ!」
「居場所教えてくんねーか?」
「おい、ツナが見つかったぞ」
ヤクザを尚も尋問していた二人はその言葉に勢い良く顔を上げた。
乱暴にヤクザから手を放すと、ヤクザは力なく床に伏した。
「十代目ご無事で!」
「元気そうじゃねーか!」
無傷の二人にツナは安堵とも困惑とも、驚きともつく顔を作った。返答に困って口をもごもごさせている。
自分が危ない目にあったというのに他人の心配ばかりのこいつはやっぱり優しい。
にしても……こんだけ弱いと更なる強敵フラグが立、
「騒がしいと思ったら……何してくれるんだ?ガキ共が」
ったね、うん。
明らかに先程の雑魚とは違うと分かる威圧。彼等は部屋を見渡してから、仲間の代わりに立っている部外者を視線で捉えた。
獄寺がずい、と前に出たが、それをディーノが制した。
「こいつらは、さっき倒した若い衆とは訳が違う。大人の相手は大人に任せとけ」
毅然とした面持ちでヤクザ三人衆の前に出た。
流石はマフィアのボスの座に就いているだけはある。
部下がいないとどうたらの話は少なくとも立ち振舞いに当てはまらないのか。しかし一人でも堂々とした態度でいられるのならボスとして何ら問題ない気がするのだが。一人でも強いし、一人でも臆せず多数に立ち向かい任せろなんて言ってのけるのだ。本当、どこが駄目なのか。
あえて言うなら男の劣等感を刺激することか。俺も少し僻んだ、特にあのサラサラヘアー。
そんなサラサラは交換条件を出すようだった。
「俺はキャバッローネファミリー十代目ディーノだ。こうなったのは全て俺の責任だ、悪かったな。
全員の治療費と備品の修理費は払う。それで手を打ってくれ」
ドッと笑いが溢れた。暫くして、ヤクザが嘲りを含んだ声色で返す。
「金は頂く。そしてテメーらは帰さねぇ!」
ディーノは表情を崩さぬままに言った。
「交渉決裂か。じゃあ力ずくで帰るしかねーよな」
す、と取り出されたムチ。
ふとツナの顔を盗み見ると、一筋の汗が伝っていた。
「……?」
訝し気にその様子を眺めていると、獄寺と山本らしき悲鳴。
ばっと見渡すと、呻きしゃがみこんだ獄寺、山本と、ムチを落とし膝を付いたディーノの姿があった。
「え、え!?」
「自分にも当たったー!」
叫ぶディーノになんとなく事態を把握した。
見事にツナ以外の味方を殲滅した訳だ。逆に器用だろこいつ。……獄寺の後ろにいて良かった。
俺達を見て、ヤクザが高笑いを上げた。
「ひゃはははは!!アホだ!自爆しやがった!!」
アホ。それに関しては俺も大賛成だ。部下がいない所で一番駄目になっちゃいけないとこじゃないの。一人の時に襲われたらどうすんだ。
……それはともかく、この状況を何とかしなければならない。リボーンがいれば何とかなるんだが。
「こいつらみんな口をきけなくしてやれ!!」
考える内にヤクザ共は向かってくる。仕方ない、三人が復活するまで俺がやるしかない。
「おいツナ、下がってろ」
「え?でも」
「いーからいーから」
前に出る。先程まで雑魚が使っていた、下に落ちている鉄パイプを拾い上げる。一気に襲いかかってきたヤクザ共を軽く睨み付けてから、俺は一歩、足を進めた。
「……すごい」
綱吉は思わず言葉を溢す。昨日熱で倒れたばかりの、病弱な兄は一人で多数相手を圧倒していた。いつの間にこんなに強くなったのか。
後ろからの攻撃を避け、蹴りを飛ばす。同時に斜め前の二人を同時に鉄パイプで凪ぎ払う。
「やっぱ強ぇな」
「うん……ってリボーン!」
いつものように神出鬼没に表れたリボーンは、銀時へ目をやったまま離さない。
「あれで何の訓練もしてない、運動部でもない、少し前までは病弱なアルビノか」
やはりリボーンでも分からないらしい。銀時は何故あんなに強くなったのだろう。恐らく、リボーンはそれを突き止めたくて堪らないのだろう。
それにしても、あれだけ強いなら、俺じゃなくて銀を十代目にすればいいのにーー綱吉の思考は、不意に向けられた銃口で止められた。
「おめーも負けてらんねーぞ、ツナ」
「復活!!!死ぬ気でヤクザを倒ーす!!」
銀時の隣で綱吉は片っ端から暴れていく。銀時は一瞬目を見開いたが直ぐに口許を上げ、残党への攻撃に専念した。次第に山本達も動けるようになり、形勢逆転。あっけなく事態は収束した。
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