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自宅とは、何にも代え難い憩の場であるべきだ。自宅でまで神経を磨り減らすような真似はしたくない。だからこそ自宅というのは静かな場所にあるべきだ。当然、街中にあれば気も休まらない。だからこそ住宅街というのができたのだろうし。閑静な住宅街最高。
だが、いくら静かでも自宅前に黒スーツの男がいたら憩もへったくれもねーだろ。
「ツナ、俺恭弥のとこ行って来る」
「待ってぇぇ!一人にするなぁぁぁ!!」
ツナに襟首を掴まれる。
「これ、ぜってーツナ絡みだろ。俺ファミリーじゃねーもん」
「一話あたりで頷いてたよね!?」
だって何も理解して無かったし。あの後丁重にお断りを入れてたりするので、俺の中では既に無かったことになっている。勿論リボーンの発言は総シカトである。
俺がいるからと勢いを得たツナが恐る恐る黒スーツに近寄った。
「あの……すいません通ってもいいですか?」
びくびくと訊くが、黒スーツは難しい顔で首を振る。
「ダメだ、今は沢田家の人間しか通せないんだ」
「いや…あの…」
「……俺達は沢田の人間だ」
こっちは綱吉で、俺が銀時。
しどろもどろのツナに助け船を出すように指で示す。
「そういえば、白髪の兄がいるとか……」
「じゃあ、この方が、」
「そーゆーこと。上がらせて貰うぜ」
ツナの手を引いて門を潜る。
一般人の家を黒服で囲むとはなんて非常識なことか。ご近所に噂でも立てられたらどうする。怪しげな集団と繋がっているなんて思われたらうかつに外を歩けなくなる。
リボーンに一喝せねばなるまいと意気込んで駆け上がったものの、部屋にいたのは予想外の人物だった。
「いよぉ、ボンゴレの大将」
俺の予想ではリボーンがふんぞり返ってしらを切る姿が飛び込んでくるはずだったのだが、何故か部屋にいたのは金髪の外人で。
一瞬ホストかと見紛う程のイケメンは豪華な椅子から立ち上がり(というか何故こんなものがあるんだ)、俺達双子に近づいてきた。
「はるばる遊びに来てやったぜ」
「…………俺じゃない、ツナこっち」
目の前の金髪に言ってやると、相当驚いたらしい。俺達を交互に見比べて、ほうと息を漏らした。
「まじか!いかにもやんちゃそうだったからよ」
そんなに悪そうな顔してるのか、俺は。
こっちか、とツナに改めて向き直ると、手を差し出した。
「俺はキャバッローネファミリー十代目ボス、ディーノだ」
ディーノと名乗る男はなんとリボーンの元生徒だったらしく、現生徒のツナを微笑ましそうに眺めている。
「ハナからマフィアを目指す奴にロクな奴はいねー……その点お前は信用できる」
「や、俺は!」
慌てて否定しようとするツナに、ディーノは懐から何かを取り出した。
「一生やらねーっつーんなら」
しゃあ、と口を開いたのは、ゴツゴツとした甲羅を背負う生き物。
「かむぞ」
「うわぁ〜!?」
腰を抜かす様子を見て笑いを耐えながら手を差し出す。ツナが素直に掴んだのを確かめて引っ張り上げた。
「大丈夫か?」
「う、うん…ありがと」
ツナとディーノは、それからボストークに夢中になっているようだった。当然興味もツナのように聞かなくてはいけない立場でもない俺は暇になる。
もうランボ達と遊んでこようか。なんて、窓枠に凭れながら偶々視界に入った子供を尻目に考えている俺。
……あ、転んだ。
地べたに転がったランボの手から黒い物体が飛ぶのが見えた。それは俺の目の前で弧を描き窓を飛び越える。
ぼうっと見ていた俺の耳にリボーンの声が届いた。
「やべーな。外にはディーノの部下がいるぞ」
「あ、そういえば!」
――――……とん、
呆けたままだった俺の肩がいきなり軽く押されて、僅かに後退る。俺の前を金色の筋が通った。
「てめーら、伏せろ!」
ムチを駆使して手榴弾を空に放る。爆発の瞬間、咄嗟に身を引く反射神経。
「あの人カッコイイ……」
「わかったか?ファミリーの為に命を張るのがマフィアのボスだ」
呆然と呟くツナにリボーンのセリフ。
確かに常人の技ではないそれは、誰から見ても凄いもので、あの男が並でないことを物語っていた。
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