日常編 | ナノ
4

どうやらイーピンの餃子饅が原因らしい。
なんでもギョウザエキスが五百万個分も凝縮された秘伝の餃子饅とかで、餃子拳の修行を積んだ拳法家だから食べられる逸品らしいのだ。

「……餃子拳って何だっけ」

「銀、忘れたのか……後で教えるよ」

「ん」

つかなんでビアンキがいるんだ。

「来ちゃ駄目とは言われてないわ」

……そうですか。

リボーンは少し考えた後、イーピンに訊いた。

「イーピン、お前師匠に餃子饅を他人にやるなって言われなかったか?」

「!!!」

ハッと息を呑むイーピン。
たらたらと汗が浮かび始めた所を見ると、忘れていたのか。
倒れる二人を見つめながらツナが呟いた。

「ってことは京子ちゃんとハル……死んじゃうの?」

更に汗が噴き出すイーピン。

「この様子では時間の問題ね」

だらだら。

「そんなぁ――!」

「………可哀想だろうがぁぁぁ!!」

「ぐげぇ!?」

ツナにラリアットを食らわせた。
だって見てみろ、イーピンの尋常ならざる汗の量。その内干からびるぞ。

のたうち回るツナを置いてイーピンの頭を撫でる。

「悪気は無かったんだろ。だったら今は二人を救う事に集中しな。二人が助かってから謝ろうぜ」

「!」

イーピンは落ち着いたようで、何度も頷いた。
これで良し。

「そうだな……薬みてーなモンがあればいいんだが」

「こんなおっちょこちょいの殺し屋だぞ。師匠が解毒剤を持たせてる筈だ」

リボーンの言葉にイーピンが鞄を漁り始める。

イーピンの手が、何かを掴んで出てきた。

「やったー、あった!早く二人に飲ませてあげて!!」

復活したツナが急かすように――実際急かしているのだろうが――言うが、それは恐らく。

「一人用、だな」

「な、なにぃぃ!?どどどどどうしようー!!」

一番落ち着くべきはイーピンではなくツナだな。
しかし困った事態になった。

「今こそ愛が試される時よ――助かるのは一人、あなたはこの二人のどちらを選ぶの?」

「え!?ど、どっちって……」

半分にするのは駄目なのだろうか。効果は半減するかもしれないが、全く無いことはないのではなかろうか。
しかし生死の懸かっている薬だからか誰もそうは考えないらしく、ツナに至ってはビアンキの無茶振りに激しく混乱しているようだった。

「どっちが死んでも困るに決まってるだろー!!」

なにも叫ばなくてもいいとは思うが、ツナだから仕方ない。
叫びに反応したのは何時もの如くリボーンで。

「悪くない答えだぞ」

リボーンはそう言うと銃を構え二人に撃つ。
所謂同時撃ち。

「んな――!!死ぬ気弾ー!?」

「同時撃ちすると、死ぬ気弾の共鳴によりパワーアップするんだ」

ツナの叫びにリボーンが説明する。いやに冷静だ。リボーンのことだから、勝算はあるのだろうが。

「けどその代わり、二人の後悔がシンクロしてなかったらそれきりだ」

「そんなー!!」

ツナが嘆く。後悔のシンクロとは余程思考が同じでないと無茶ぶりも甚だしいと思うのだが。
……しかし心配は不要なようだ。

「見ろ、ツナ」

「え?」

素直に振り向くツナ。
そこに下着姿の京子とハルがいるのに。

「ツナのすけべー」

「…………
……………ガッ」

ツナは鼻血を派手に噴出して倒れた。
その際俺に盛大にぶっかけられた。どこのチンピラだ、服に血なんて。

「何やってんだ」

リボーンの呆れ声が頭に直撃。しょうがないだろ。

「鼻血出てるぞ、銀」

「まったくツナったら、俺の顔にまで鼻血を飛ばしちゃってもうっ。まるで俺が鼻血を流したみたいじゃないかー」

「止めどなく溢れてるぞ」

「……さっきチョコレート1キロ一気飲みしてさー」

しかしそんな事している間にも二人はどんどん進んでしまう。
とりあえずシーツを二人に投げておいて、ツナを引っ掴み追いかけた。



「どこまで行くんだ……」

下着のみだというのに恥ずかし気もなく商店街を進む二人は、漸く目的地に着いたらしい。
目的地は――ナミモリーヌだったのか。
つまり二人の後悔は……。

「キャアァァアァ!!」

ガラスの割れる音と、次いで悲鳴。
京子とハルはショーケースのケーキを鷲掴んだ。

「今日はハル感謝デーですから」

「一個じゃ足りないよね」

そう言って次々とケーキを食べる食べる。

「どうしよう銀――銀までぇぇぇ!!」

便乗してケーキに食らい付く俺にツナが絶叫した。

あー、うまい。


暫くしてリボーンがリバース1tを取り出した(どこからだ、なんて突っ込む気も起きない)。
二人の暴走は無事に終わり鎮静化するが、店内は酷い有り様だ。


「じゃあ、後始末とケーキ代頼んだぞ」

「えっ!?またバイト――というか銀のまで!?」

「頼んだ、ツナ」

「そんなぁぁぁ!!」


ツナの嘆きを背中に、俺は家路に戻る。
腕の中のケーキは今夜のお楽しみである。

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