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そんなこんなで日曜日。
俺は商店街へ繰り出していた。
俺には好きな店がある。
中学入学前、恭弥が買ってくれたケーキの店。
初めて食べた時はめちゃくちゃ旨くて驚いたのを覚えている。
「お、銀時君いらっしゃい」
「こんにちは〜」
すっかり顔馴染みとなった店員と挨拶を交わし、ショーウインドを覗き込む。
どれにしようか……。
「ぎ、銀!?」
「へ?…あれ、ツナ」
聞き覚えのある声がすると思えば……ツナがハルと並んでいた。
「はひっ!銀さんもナミモリーヌのケーキ、好きなんですか?」
「まぁな。で、二人は買い物ついでにデートですかい?」
「で、デートなんて…!」
ポッと頬を赤く染めるハルにツナが慌てて否定するが、俺はあえて無視をした。
その時、またもや知った声。
「あれ、ツナ君、銀時君」
「……あ、京子」
「京子ちゃん!?」
憧れの人がいると分かるやいなやツナが焦ったように弁解し始めた。
多分京子は気にも止めないぞーと思いながら京子を見ると。
何故か慌てていた。
「こ、これは月に一度っ!第三日曜日にはケーキを好きなだけ食べるって決めてて、毎日ケーキ三個も食べてる訳じゃないから……!」
へー。
「俺もそんな感じー。週一だけど」
「わ、流石男の子だね!」
「ハルもですっ!ハルの場合ここのお店のミルフィーユは外せませんっ」
「私もー!それとシュークリーム!」
「ここのカスタードはバニラビーンズ入りですもんね!」
「おめーら、ストロベリー・マスカルポーネを忘れんなよ」
「勿論!!」
「やっぱりここは最高ですねっ!」
話してる内に意気投合、ツナがぽかんとしてるのも気にせず話し始めた。
すると。
「立ち話もなんだからうちにきてゆっくり話せ」
またまた知っている声。
振り向けば案の定リボーンがいたのだが。
「……何で和?」
リボーンはリボーンでも和服で茶を立てているリボーンだった。まぁスルーしよう。ツッコミは全てツナの仕事なんだから。
それよりも、リボーンもたまには良いことを言う。
「リボーンの言う通りだよなー。二人共うち来いよ」
「わ、いいの?」
「じゃあお邪魔させてもらいますー!」
その間ツナは空気のままだった。
「京子ちゃんもハルも、自分の分一個だけになっちゃったけど、本当に貰って良かったのかな?」
「いいですよー、皆で食べた方がおいしいですし!」
「うん!ツナ君ち賑やかで羨ましーなぁ」
不安気に問うツナに、ハルと京子がそれぞれ返す。
本当にいい子達だ。
……俺?普通に二つ食ってるけど。
「…………あっ」
俺のイチゴショートが!!
視界にしっかりと映り込んだ盗人の腕を辿り、腕の主を睨みつける。
「何でいるんだお前は」
「子供の俺が十年バズーカを誤射したっぽいですね」
俺から掠め取ったケーキになに食わぬ顔でかぶり付く大人ランボに拳骨を落とす。
「っ――〜!!」
自業自得だ、牛野郎。
男同士、不毛な喧嘩をしている傍らで女の方は至って平和な会話を繰り広げていた。
「どお?イーピンちゃん、このミルフィーユは」
初めて食べるのか、恐る恐る口へ運ぶイーピンにハルが声を掛けた。
イーピンは数回の咀嚼後、ふる、と身を震わせた。
目にはきらりと光るもの。
その様子にハルと京子は安心したように笑った。
「皆が通る道ですっ」
「やっぱり女の子ねー」
微笑ましい光景を男共は暖かくも遠巻きに眺めていた。
だって入り辛いのだから仕方ない。天使達の園は侵すことなく愛でねばならないのだ。
「¢&%、#‡@*℃」
感動に浸っていたイーピンが、何かを取り出しながら言った。
中国語なので勿論分かる筈も無く、リボーンが当然のように通訳した。
「『ケーキのお礼に秘伝の餃子饅を差し上げたい』」
「ハハハ、餃子饅は後でいいよイーピン。今はケーキ食べてるんだし」
「おいしそー!」
笑顔のツナはしかし、女子二人の言葉で驚きに変わった。
ランボがケーキを食べながら冷静に諭した。
「お言葉ですが、若きボンゴレは女性の扱いが分かっていませんね。
女性というのは神秘的な胃袋を持つ仔猫ですよ」
「え゙ぇ゙、仔猫!?ランボってそーゆー大人なの!?」
「お前……本当この十年間で何があったんだ」
不思議そうに首を捻るランボ。しかし、ヘタレと天パと角が無かったら今のランボと関連付けることが出来ない。
人間とは変われる生き物なんだな。
人類の神秘について暢気に考えていたが、ばたん、という音で我に帰った。
「……え?」
「ちょ……京子ちゃん!!ハル!?どうしたの!?」
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