日常編 | ナノ
2

欠伸をしながら一般的な起床時間よりだいぶ遅く一階へ下りると、見慣れない子供が珈琲を啜っていた。

「……………………」

「……………………」

「ちゃおっす」

無言で暫く見つめあうとそいつは独特な挨拶をしてきたので「ちゃ、おっす?」と返してみる。すると子供は俺に向かってにやりと子供らしくない笑みを浮かべた。
正直に言う。訳が分からない。

「あらあら銀ちゃん、またこんな時間に起きてきて。しょうがないわね。ご飯出来てるから座りなさい」

……あれ?母さん、普段通り?

どういう事だろうか。あ、親戚の子預かってるとか?
うちの母親は子供が好きだから、預かってほしいと言われれば嬉々として承諾するだろう。見たことのない子供だが、どこの子だろうか。
そう考えていた俺の寝起きの頭に、母さんが衝撃のカミングアウト。

「あ、そうそう。その子は今日からツッ君の家庭教師になるリボーン君よ。仲良くしてあげてね」

「おー………………ハァッ!?」

コイツどう見たって赤ん坊だよな!?何?ツナってそこまで追い詰められてた訳?……なら兄ちゃんに言ってくれれば勉強の一つや二つ教えたのに!!

しかし母さんはいつものようににこにこ笑うだけで、嘘を付いてるとは思えない。まあ母さんは天然だからこの可笑しさに気付いてないだけかもしれないけど。
……これを天然という言葉だけで纏めていいのか些か疑問ではあるが。

だが俺もやはりその血が流れているらしい、結局、そんなモンだよな!と納得してリボーンとやらに向き直った。

「不束者な弟ですがよろしく」

「おう、任せろ。立派なマフィアにしてやるぞ」

ん?ケフィア?

真っ当に生きてれば聞く事の無い単語が聞こえた気がしたが俺はもう大人な訳で、こんなちびっこの言う事など真に受けないさ。
あれ、そのちびっこに勉強教わるツナって一体……。

「まあ立派にダメツナを卒業させてやってくれや」

寝起きで頭は働かないし、やっぱり頭を使う事は苦手だから、取り敢えずはリボーンにツナを託しておいた。







そんなこんなでリボーンとお茶(俺はいちご牛乳だが)を楽しんでいると、扉からどたばたとした足音が近付いてきた。

「銀っ!!」

学校帰りらしい、鞄を脇に抱え勢い良く扉を開けたのは俺の片割れだった。
走ってきたのだろう、肩で息をする姿はやはり弱々しい。もやしっこめ。

「ツナか、おかえりー。どうした?そんな慌てて」

「ここに帽子被った赤ん坊来なかった――ってリボーン!何してんだよ!!」

どうやらリボーンを探していたらしい、奴を見つけるや否やツナは俺に固定されていた目線をリボーンに向けた。
リボーンは相変わらず優雅に珈琲を啜っている。

「銀と話してたぞ」

「いつの間に仲良く!?」

ツナはむちゃくちゃ驚いた顔をしてから溜め息。

「もー…どうすんのさ。こんな感じで毎回毎回死ぬ気弾撃たれたら体も持たないし制服だって買わなきゃいけないじゃないか!」

「制服?」

つか死ぬ気弾?
訊くと、ツナはああ、と声を出した。

「えっと……話せば長くなるんだけどさ。実は、」

「銀、おめーボンゴレファミリーに入れ」

「リボーーン!!??」

ボンゴレ?パスタの一種か?
つい先日家族で食べに行ったイタリアンの店で確かそんな名前を見た気がする。どんな意味だったかは覚えていない、というか食べる気はなかった為見ていない。
先程の答えも得られなかった為それも併せて訊くと、リボーンは実に簡潔に説明してきやがった。
本当、何モンだよコイツ。

つまり?ツナをまふぃやの何とか家族の十代目にするために俺が息子になればいい訳だな。
元々家族だから、これ以上親密になるには兄弟且つ親子という関係が一番だ。――ん?

「マフィアのボンゴレファミリーだ。あと息子じゃねー。ちゃんと話聞いてたのか」

「うぉう心読まれたっ!?」

俺が相当驚いたように見えたのか、ツナが慌てて叫んだ。

「そうだったーッ!リボーンは読心術が使えるんだった!」

まじでか。
それは非常に困る。何故なら俺は常日頃から高尚なる思考回路で以て女性達との以外略を想像などしていない!何を言わせるんだ馬鹿野郎!
あぁ、しかしこれは俺が一番嘆くべき事柄では無い。と、最大の被害者たる人物へエールを送った。

「ツナ……ファイトだ。骨は拾ってやる」

「何で俺に言うの!?」

何でって、そりゃあお前がこの末恐ろしい赤ん坊に教えを請うからじゃねーか。勉強もその他も。
そう言いたかったが、余りにツナが哀れだったので、心中で呟くだけに留めておいた俺は心底大人である。

「それにしても、何でこいつが十代目?歌舞伎でもすんのかよ。つかよく考えたらツナの兄と息子の両方にゃなれねーよ?どっちかに絞ってくれ。つかツナのツマは誰?あ、面白い」

「どこが!?」

「妻、奥さんのことな」

「寒いよ!!」

「……それをさっきまで話してたんだがな」

人の話を聞かないとは良く言われるが、こんなガキに呆れられるとは。これって幼児虐待だろうか。
未だ働かない頭で再びリボーンの呆れた調子の説明を聴く事となったが、やはり無駄なことばかり考えてしまう俺には集中力が無いと思う。

これを無限ループという。


因みに俺は知り合いの権力で公欠してるのであって、断じてサボりではない。そこを間違えないように。

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