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恭弥に女子制服を頼み(言った瞬間瞳孔が開いて怖かった)、嫌がるツナを保健室で一旦診て貰い、異常無しという事で帰らせ、校医に女装を見せる事になっているので着替える。
「裸見せんじゃねーよ、特に胸」
「そのまま萎えちまえ」
良かった、男に目覚めてはいないようだ。
女子の制服は中々面倒臭い。そして短い。見えそうな為、トランクスを中に折り込む。前回と同じだ。
慣れない手つきで悪戦苦闘していると、様子を眺めていた校医が突然、意味を為さない声を上げた。
「あー、」
「あ?何だよ」
「本当、なーんで男なんだ。女だったらチューしてあげたのに」
「死ね」
そういえばツナは、初めて会った時に胸を触られたらしい。ツナに対しても女だったらと思っていたりするのだろうか。
俺達双子、特にツナは母親の血を強く受け継いでいるため、どちらかといえば女顔だ。それに中一であるから幼い。あるいは女と間違えることもあるかもしれない。
掌で目を覆う校医にムカつきながら、着替えを終える。
「どうよ」
目の前の変態に見せつけるようにくるりとターンすると、奴は途端にテンションが上がった。
「ヒュー!!やっぱりこっちのがいいじゃねぇか!」
やっぱりキモい。
思わずジト目を向けると、校医はニヤリと笑った。
「ほら、ここ座れ」
「は?」
「いいから」
腕を取られたので訝しみつつも座ると、その腕にチクリと何かが刺さった、ような。一瞬だったので何だったのか知らんが、虫にでも刺されたんだろう。
依然、校医は腕を放さない。
「俺は男はどうしても見たくないが、まあ、仕事なら。大切な仕事なら似合う女装まで許容範囲だ」
「……何だよ?おい」
「ほい、終了。もう帰れ」
「は!?」
自分に言い聞かせるようにぶつぶつと唱えた後、あっさりと手放した。着替えたばかりなのに、どういうことだ。しかしいつまでも女装していたい訳でもない。直ぐに着替えると保健室を後にした。
腑に落ちない。応接室に向かいながら悶々と考えた。
気持ち悪かったのかちくしょー。じゃあ前回の食い付きっぷりはなんだったんだこのやろー。ツナに見せないで良かった。
ツナといえば、ちゃんと無事に家に着いただろうか。途中でぶっ倒れてませんように。
そういえば山本、棒倒しでツナの下敷きになったよな。大丈夫とか言ってたが、怪我してないよな。
それもこれも獄寺と了平先輩の中の悪さが――
「銀時、どうしたの?入りなよ」
っと、考え込みすぎた。
応接室の扉の前で立っていたらしい。恭弥が開けてくれなきゃずっとそのままだったな。
応接室には、制服を受け取りに来たと思われる風紀委員の姿があった。これだけの為に駆り出されたのか……すんません。
「何をそんなに考えていたの?」
「校……じゃねーな」
途中から趣旨がずれた。
「ふーん……まぁいいや、入りなよ。制服持ってきたんでしょ」
「そうそう。そうだった」
女子制服を差し出すと、当たり前のように風紀委員が持っていく。恭弥は扉が閉まるのを確認して、俺と目を合わせた。
「またあの校医?」
そうだと言えば、あいつはクビになるのだろうか。
「いや、違う違う。体育祭後のクラス盛り上げるのに使ったの」
「そう」
「つか、マジ参加したの見てびびった。いつもは何があっても行かない癖に」
リボーンには会えましたか?
聞くが、思い通りにはいかなかったのだろう、恭弥は結局何も答えなかった。
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