日常編 | ナノ
2

ツナが濡れ鼠状態で練習から戻って来て心配になった。
(精神的にも)死にそうなツナを見ると何だか罪悪感が芽生えるが、決まったものは仕方ない。若干小さく頑張れと言えば、ツナがうんと頷いてくれて安心。

ツナが風邪を引きませんようにと祈りながら、体育祭当日を迎えた。



「銀」

登校中、遠慮がちに呼ぶツナを振り返る。

「あのさ、ちょっと風邪引いたかも」

「おいおい、やっぱりかよ。保健室行くか?」

「うん……ごめん」

場合によっては見学させることも念頭に入れるとして、二人保健室へ向かった。


またもや忘れていた。


「だぁーから、男は診ねぇっつってるだろーが!」

校医の座る椅子にだらしなく腰掛けるのは、ついこの間一悶着あった変態。
何故かツナとも知り合いらしい。どうやら保健室で会った訳では無さそうだ。

「テメー、いい加減にしねぇとクビにすんぞ」

一応その権限は(恭弥がだが)持っている。
混乱しているツナの代わりに俺が言い返すと、変態――シャネルだかシャアだか。なんだっけ?――が何も言わずじっと俺を見てきた。

「な、んだよ」

挙動不審に目玉を動かしながら問うと、シャ――校医がにたぁ、と笑った。

「後ででいいから、またアレしろよ。そしたら診てやる」

うわぁ、キモい。
どちらかというと、女装を見たいというよりも俺を言い負かしたいという思いが強いんだろう。こういう時に咄嗟に思い付かせる材料になってしまう位なら、前回勝つために女装なんてしなければよかった。

しかしツナの為だ、一肌脱いでやろうじゃないか。
特に抵抗感がある訳でも無いから(単なる悪ふざけとしてだが。趣味にするには抵抗感がありすぎる)体育祭の終わりに保健室へ寄る事を約束する。

俺の返事に満足した校医は漸くツナの方を見た。

「ほらよ」

校医がツナに何かを放る。ツナの手の中を覗くと、市販の風邪薬が箱のまま。

「え、これだけ?」

俺が言うと、校医はケッと心底嫌そうに毒を吐いた。

「テメ、俺みたいな優秀な医者に市販といえど適当な薬を選んでもらえたんだぞ?」

食後に二錠。めんどいから今飲んじまえ。
たるそうに説明というか投げ遣りに言うだけの校医に、俺の怒りのセンサーがビビッと反応した。
だが俺が何か言う前にツナが「もう行かないと、遅れちゃうよ」と何ともいい子発言をした為に睨むだけに留めておいた。

いつか恭弥に言ってやる。
そう思いながら、流しに向かったツナを追いかけようと体を反転させると、校医が俺を呼び止めた。

「んだよ」

「面倒だが、体育祭の後あいつ連れてこい。お楽しみの前に診てやるよ」

「お前……」

照れたように言う校医に、爽やかな笑顔を向けた。

「その言い方、キモい」










幾分顔色が良くなったツナは、今ホッピング競争なんていう競技に参加している。何で体育祭にこんな競技があるんだ。
――あぁ、よろける度ハラハラする。

俺はというと日傘を差し暢気に見物である。
サボり?んな訳ねぇだろーが。あんパン食い競争は出るし。

「銀時!一位取ったぞー」

笑顔で駆け寄ってくる山本に手を振る。

「さっすが山本〜。野球部エースは伊達じゃねぇな」

「はは、サンキュー。……にしても、本当に出ないのか?」

「パン食いは出るけど」

「……そっか」

山本は少しだけ残念そうに表情を崩した。

「折角だから棒倒し、一緒にやりたいと思ったんだが、体の事もあるしやっぱり無理だよなぁ」

つくづく俺の良心を突いてくる男である。そんな、仔犬のような瞳で見つめないでくれ、抱えきれない罪悪感が湧き出てくるから。

「残念だけど……しょうがないよな」

「っ〜――、」










「何で銀がいるんだー!?」

「だから、説明した通りだよ。山本に誘われて」

「いや、そうじゃなくて!体は?大丈夫なの?」

「あー、大丈夫じゃね?」

「軽ー!?」

どうやら、諦め半分ながらも棒倒しの大将として頑張ろうとした矢先に俺が入場門に現れた為驚いたらしい。
あの目には逆らえなかったんだ。仕方ない。

心配して損したよ〜、と大きく息を吐くツナに、

「ぶっちゃけ体育できるくれーだし、余裕じゃね?」

「そ、そういえば!!」

「うん。……あぁ、昨日はごめん。俺が悪かった」

唐突に謝るとツナが目を丸くする。そして慌てたようにまくし立てた。

「いや、大丈夫だって!どっちにしろお兄さんとか獄寺君とか、何よりリボーンがいたし、銀が何も言わなくてもこうなってたよ!」

「そうか?うん、でもよ、ツナが大将になるってーのは俺も賛成だぞ。お前、何だかんだ強ぇから」

「ぅえ!?あ、そ、そう?ま、まぁ銀時も出てくれるし、負ける訳にはいかないよね!!」

「お、やる気だな!頑張れよ!」

これぞツナの操作方法である。




ぐだぐだ話している内に棒倒しは始まろうとしていたらしい。

相手多くないか?
首を傾げる俺に、ツナが説明する。

「あー……、リボーンのせいで相手の総大将がいなくなってさ……。相手は二組合同なんだ」

「なにそれこわい」

スポーツマンシップはいずこ。
それなら人数を減らすなりなんなりすればいいのに、何故フルメンバーで挑もうとするのか。この学校は中学の癖に自由過ぎる。その内独裁者による革命があるんじゃなかろうか。恭弥とか恭弥とか……恭弥とか。


「やあ、銀時」


……コンニチハ。

prev / next

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -