日常編 | ナノ
1

「"極限必勝"!これが明日の体育祭での我々A組のスローガンだ!!勝たなければ意味はない!!!」

オオオオ、と男女入り交じった歓声が響く。

談義室にて笹川京子の兄、了平が燃え盛る勢いで熱弁している。
明日に控える体育祭。縦割り代表である了平が説明並びに選手決めを執り行うべく前に出ているのだが。

「なんつーか、一方的じゃね?」

「うん、まぁ……」

正に直情径行、周りが全く見えない性格の為か、説明は支離滅裂で分かり辛い。一年は盛り上がりこそすれど理解していないだろう。士気を上げるという点では非常に優秀だとは思うが。

上級生共は去年の経験から何があるのか大体把握しているらしい、心置きなく盛り上がっている。

「今年も組の勝敗を握るのはやはり棒倒しだ。例年、組の代表を棒倒しの"総大将"にする習わしだ。つまり俺がやるべきだ」

そうなのか。こいつが大将なら確実に勝てる気がする、だって熱いし。
やる気無さげに前に目をやると、丁度了平が教壇をダンっと叩く姿が目に入りびくりと震えた。

「だが俺は辞退する!!
俺は大将であるより兵士として戦いたいんだ――!!」


な、なんだってぇぇ!?(CV:杉○智○)

……とまぁ、若干棒読みなようでいて大袈裟に振る舞うという技を(心の中で)華麗に繰り出す。
確かに「大将」という名前こそ立派だが、やることは落ちないように耐える位だ。力は必要だろうが積極的に戦いたい人間には退屈だろう。性格からして了平が棒の上でじっと待機なぞ無理だろう事は分かっていた。

「だが心配はいらん。俺より総大将にふさわしい男を用意してある!」

その言葉と共に了平の視線が一瞬こっちに注がれた、気がする。
それと同時に展開が読めた。

かくして了平は予想通りの名前を叫んだ。

「1のA、沢田ツナだ!!
賛成の者は手を挙げてくれ、過半数の挙手で決定とする!」

わーい俺は賛成ですよー。という訳で手を挙げる。

「わー!!銀、何挙げてんの!?」

「良いじゃねぇの。何事も経験だ」

だが、皆戸惑っているのか、中々挙げようとしない。
当たり前だ、今まで三年の代表のみがすることを許された競技なのだから、きっと総大将を夢見ていた奴もいるだろう。それがこんなヒョロい奴に渡るなんて複雑な気分にもなる。


「手を挙げんか!!!」

「ウチのクラスに、反対のやつなんかいねーよなぁ……?」

了平と獄寺の脅しに漸くちらほら手が挙がり始める(女子はなんか、結構ノリノリだ)。結局、ツナが総大将をやるということで落ち着いた。

会議も終わり、未だに納得していないツナは人の波を逆行して了平に近づいた。この期に及んで断りを入れようとしているらしい。
しかしまあ折角のツナが体育祭で活躍できるかもしれないチャンスなのだ、俺としては是非とも総大将になってもらいたい。

ツナがやらざるをえない決定打を作るか。
人混みをかき分けてツナに近寄り、肩に手を置く。

「なぁ……ツナ、あれ、リボーンじゃねぇの」

「え゙!?」

反射的に周囲を見渡してしまう辺りリボーンの恐怖政治に見事はまりこんでしまったんだろう。意識が逸れたところを見計らって一足先に了平に近寄った。

「了平先輩ー!」

「ん?……沢田銀か!何だ!?」

「俺ってば一応、棒倒しには出ない事になってるじゃないすか」

「何っ!!そうなのか!?」

いや、把握しておきなさい。一応知り合いなんだし。
一応は本当の事である。まぁ出ようと思えば出られるのだが、こういう時に病気持ちのカードを使わずいつ使う。

「だから、俺の分もツナが総大将として頑張ってくれたらいいなーと思って」

「そうだな!よし、沢田ツナ!何故かは知らんが参加できない沢田銀の為にも総大将として、極限に活躍してくれ!」

今更気付いて駆け寄ってきたツナがヒッと小さく悲鳴を上げる。
先に目の前でこんなことを言われてしまえば、断ることはできないだろう。作戦成功である。

「しかし、沢田銀!お前も体調が良くなれば参加するといい!体育祭とは青春!極限に青春を謳歌するのだぁぁ――!!」

俺はそんな声を上げながら満足気に去って行く了平を見送って、衝撃を受け固まったツナの肩にポンと手を置いた。

「頑張れよ!」

「……銀なんか嫌いだ!!」

俺は固まった。












ショックを受けたままの顔で応接室の扉を開くと、顔を上げた恭弥が怪訝な表情を浮かべた。

「何かあったの?」

「いや……ツナに嫌いって言われてよぉ」

「あぁ、あの草食動物ね。
そんなの気にしなければいいでしょ」

恭弥は立ち上がると俺の襟足を掴んで引っ張り、というか投げ捨てるようにしてソファに座らせた。
勢いが強過ぎてぐえっと声を上げるが、恭弥は無視して執務を再開する。

心なしか機嫌が悪い……いやいや。
そんな恐ろしい。

恭弥から視線を外し、天井を眺める。
実際、そこまでショックを受けた訳では無い。ギャグ漫画的な大袈裟表現だから見た目程のダメージは無いのだ。

仮に俺がショックを受けたのだとしたら、幼き日のあんなに純真無垢だったツナが俺に暴言(と言う程でもないが)を吐いたことだ。俺には何されてもあんな事言わなかったのに。それもこれも全部リボーンのせいだ。

だが、まぁ、ツナの成長を実感しているようでもあるし逆に頬が弛むんだが。


――ん?何、もっと聞く?
弟自慢しかできないけど。

「銀時、暇なら手伝う?」

「いやです」

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