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「へー、こんな良い部屋があるとはねー」
応接室の扉が開き現れたのは見知った少年だった。物珍しそうに部屋中を見回している。
俺としては頭を抱えたくなった瞬間だ。山本達がいるということはツナもいる筈。確実にリボーンの差し金だろうが、ツナに恭弥はやめてくれ。ツナが死んでしまう。
案の定恭弥は不快そうに顔を歪めた。
「君、誰?」
敵と認識したのか、恭弥はトンファーを構えた。
殺気がするよ、ここまで飛んでくるよ恭弥。
「なんだ?あいつ」
「獄寺、待て」
あからさまに敵意剥き出しな獄寺を山本が制す。山本は恭弥を知っているらしい。
並盛を牛耳っているのだ、当然といえば当然かもしれないが、普段笑みを絶やさない山本にしては珍しく焦ったような表情だ。
「風紀委員の前では煙草は消してくれる?ま、どちらにせよただでは返さないけど」
恭弥の挑発に逆上した獄寺が一歩前に進んだ。
その瞬間、相変わらずのスピードでトンファーが薙いだ。
獄寺の吸っていた煙草が細切れになり床に散らばる。
「なっ」
「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いなんだ。視界に入ると、咬み殺したくなる」
ね、銀時。
振り向き俺に同意を求める恭弥。
そのお陰で漸く獄寺と山本は俺の存在に気付いたようで、口をぽかんと開けた。
顎が外れませんように。
「……俺に言われてもなぁ」
「銀時!テメー何してやがる!!」
獄寺が叫ぶ。恭弥は眉を潜めた。
「知り合いなの?」
「いっぺんに質問すんじゃねーよ。……うん、まあ知り合いだな。」
仕事仲間?獄寺はともかく山本は友達だけどな!
言うと、山本は嬉しそうに笑った。
うん、好ましい少年だ。
獄寺は顔を真っ赤にして文句を言っている。そんなに山本に劣るのが嫌なのか。
「はいはい獄寺も友達ですよー」
「そうじゃねーだろ!!」
へーへー、すいませんね人の気持ちが分からなくて。
恭弥は俺達のやり取りを聞いているかと思えば、いきなり俺の頭を平手で叩いた。
ベチンッと良い音がする。
「いっ――何すんだよ恭弥!」
「何勝手に草食動物なんかと群れてるの?」
「別に友達っつっただけだろーが!!何?友達つくるなって事!?」
恭弥は呆れた様に溜め息を吐くと俺の髪を乱暴にかき混ぜた。
「違うよ。もっと人を選べって事を言いたいんだ。あんなのじゃなくてね」
明らかに二人への挑発である。山本はどうか分からないが獄寺は確実にキレるだろう。
顎で二人を指せばやはりキレた獄寺が怒鳴る。
「おい、ご――」
猪突猛進。感情のままに動く獄寺はもう少し精神を鍛えるべきだろう。
山本が静止するより先に再び応接室の扉が開いた。
「へー、入るの初めてだよ、応接室なんて」
場にそぐわない暢気な声は聞き覚えがある。
「待てツナ!!」
「恭弥ストップ!!」
山本と俺の声が見事にかぶり、ツナは気付かない。
恭弥は元々人の意見を気にする筈がない、分かってはいたがそのままツナの頬をトンファーで殴りつけた。
「まずは一匹目」
ツナは派手に吹っ飛び応接室の壁にぶつかる。
動かない所を見るに、気絶したのだろうか。
「恭弥ぁっ、そいつ俺の弟――」
「のやろぉ、ぶっ殺す!!」
ソファから飛び起きて叫んだ俺の非難は獄寺に掻き消された。瞳孔をこれでもかと見開きダイナマイトを手に恭弥に向かって突進した。
恭弥相手にそんな攻撃が通用する筈も無く軽く避けられ、強打。
「二匹目」
冷気を纏い淡々と言う姿は恐ろしいものだ。
まあ、直接それが向けられたのは初対面のあの時だけだが。
山本は恭弥を睨んでいる。二人共臨戦態勢である。山本がまた怪我をする可能性大のこの状況で寝転がったままなのは薄情だろう。
仕方ないと立ち上がり、二人の間に立った。
「はいしゅーりょー!恭弥は仕事しろよ!山本は帰れ、ツナ達は俺が回収しとくから」
「息抜きも大切でしょ」
「そうね大切だね。ほら、じゃあ俺がジャンプ読み聞かせしてやるよ恭弥。どどどどど『うおおおおお』ザシュッ『ぐっ』」
「……何がしたいの」
「ははっ、やっぱおもしれーのな!」
恭弥には飽きれられたようだ。酷く心外だがまあ許してやろう。
というか山本はまだ出ていってなかったのか。
「おい山本……」
「いーからいーから。ツナ達ほっとけねーし、素直に帰してくれそうにねーし」
しかし山本は俺に笑顔を見せると俺を押し退け恭弥の前に立った。
恭弥は間髪入れずに山本に殴り掛かる。
勿論仕留めるつもりのそれを紙一重で避けきった山本に安堵の息を吐き出した。
「怪我でもしたのかい?右手を庇ってるね、君」
驚愕する山本に恭弥は容赦無く蹴りを食らわせた。山本はツナのように部屋の端まで飛ばされ壁に激突。
「三匹目」
例に漏れず山本の体は弛緩した。
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