日常編 | ナノ
3

「……ん、」


目を開ける。

目の前に、本当に近くに、俺が映る二つの瞳があった。

「あ、起きた」

「っお前!!」

飛び起きるも、ツキンと頭が痛む。
何だか肌がひりひりするし、目が痛かった。
反射的に頭を押さえると、男にフッと笑われた。

ムカついて睨み付けると肩を押され仰向けに倒される。

「いきなり倒れるから驚いたよ。まだ何もしてないのにね」

男は俺の肩まで毛布を掛けた。

「容姿を見て思ったんだけど、キミ、アルビノでしょ」

白い髪に赤銅色の瞳、道理で傘やサングラスなんてしてた訳だ。……あんまり意味を成していないみたいだけど。
男が呟いた。

中途半端な笑顔がバカにされてるようでムカつく。
こいつにはイライラさせられてばかりだ。

「ここどこだよ。お前、だれ?」

まるで記憶喪失になったかのような質問だ。ただ、今の状況を知る為にはこれが簡潔で良いと思う。

「ここは並盛中の応接室。僕は――」

男は一瞬考えてから、

「恭弥だ。キミは?」

「………………沢田銀時」

「銀時、ね」

仏頂面で言う俺に男――恭弥は笑う。

「何で連れてきたんだよ。別に放置しててもよかったのに」

「あそこは滅多に人が通らないし、日の下に長時間放置するのは命に関わるからね。キミは日光に当たり慣れて無さそうだし」

「いきなり襲ってきた癖に」

「それはそうだけど」

恭弥は興味がどうとか言っているが、知るか。

ぶすっとしていると、恭弥は何かを投げてよこした。
傘にサングラスと、洋服。しかも新品の綺麗な。

「壊れてたから新しいのをあげるよ」

「は!?でもお前には関係……」

「並盛で起こった事は全て僕の管轄範囲内だからね、責任位取るよ。」

代わりといっちゃ何だけど。
恭弥は続ける。

「いつか並中(ココ)に入った時は、もっと体を丈夫にしておきなよ。そうしたら僕とまたやり合おう」

物騒な事を言ってる癖に今までで一番穏やかな顔。


『いつかここに入ったら』
俺の事を待っていてくれるのか?
俺の入学を望むのか。
そう思ってくれるなら、あるいは、ここに入りたいと思えるかもしれない。


体中を優しく包み込まれるような感覚に陥る。俺の頭は段々働かなくなっていった。

恭弥の口許が動くのも段々ゆらゆら揺れて、瞼が重い。
俺のより大きな手がゆっくりと瞼の上に落ちた。





**




再び寝入った銀時の毛布を掛け直す。
寝顔を見る限り、容姿以外本当に普通の子供だ。

その子供に、この僕が、押されていたなんて思えない。

ましてや彼は今迄ろくに外も出ず、体を動かす事等無かった筈。
あれは「才能」だけでは片付けられない、「経験」から成る強さだったのに。

首をゆるりと撫で、掴んだ。

――細いなあ。

ここで力を込めれば簡単に命を消せる。だがそれをする気は起きなかった。

たった一人で大人数を伸した子供。
僕と似た目をする銀時。

それでも弱くて小さくて、まだ会って少ししか経っていないのに。傍にいて、彼の成長が見たいと思えた。
彼が成長してからの方が楽しめるだろう。

彼の強さはどこからきたのか。
体の迷いの無さ。理由が知りたい。




興味が尽きない存在――










**







応接室のソファに横たわり何をするでもなくぼーっと天井を眺める。
小難しい書類と睨めっこしていた恭弥は顔を上げると俺を見た。

「ヒマそうだね」

「お前が呼んだんだろーが。別に家でジャンプ読んでても俺は構わなかった」

「僕のお陰で堂々と欠席できるんだから、少し位僕の言う事聞いてくれてもいいんじゃない?」

仕事手伝わせるならともかく、適当に寛いどけなんて、意味がわからない。主に俺のいる意味が。

「見てるだけで面白いから、いいストレス解消になる」

「え、なにそれ。ペット感覚?」

畜生。ムカつく。
ぶつぶつ文句を呟いていると恭弥は立ち上がった。

「どこ行くんだ?銀さん放置ですか」

「直ぐ済むよ、というか別に出ていく訳じゃないから」

俺がその言葉に疑問符を浮かべていると、ドアが開いた。

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